コロナで死に瀕した女医を見守った看護師の回顧 本当の英雄は不安や恐怖と闘う「患者の家族」

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医師や看護師たちが「自分の人生を変えたひとりの患者」の物語をお届けします(写真:Nathan Howard/Bloomberg)
2017年に始まったオランダの日刊紙『デ・フォルクスラント』のコラム「ある特別な患者」は当初の予想に反して大反響となり、書籍化されオランダのベストセラーとなった。
その内容は医師や看護師たちが「自分の人生を変えたひとりの患者」について語ったインタビューをまとめたものだ。医師たちの本音や葛藤が赤裸々に記されており、一般読者から専門家まで、多くの人々に感動を与えた。
新型コロナウイルス、虐待、出生前診断、難病、安楽死など様々な問題をめぐる物語であり、「どう生きるべきか」について考えるヒントにもなる。アメリカをはじめ世界中で続々と翻訳出版され、日本でも刊行された本書『ある特別な患者』の中から、新型コロナウイルス、虐待、安楽死に関するコラムを1つずつ、計3回に分けてお届けする。

新型コロナウイルスにかかった女性医師

●暗闇のなかで /ヨゼ・シュロー(集中治療看護師)

メタが集中治療室に移されたのは、入院から数日たった土曜日の朝だった。そのときにはもう、彼女は最悪の事態を覚悟していた。

その日の夜、メタから「集中治療室に入った」と連絡をもらったので、私は夜勤が始まってすぐに彼女のもとを訪れた。ひどい熱を出し、息切れを起こし、苦しそうにあえいでいる彼女を見て、私は状況の深刻さを理解した。

メタは、20年以上前から私と一緒に働いている集中治療医だ。数日前、彼女は新型コロナウイルスに感染し、自分の病院の患者になってしまったのだ。
そのウイルスがどんな症状をもたらすかは、彼女自身、嫌というほどわかっていた。

2度と家族に会えない恐怖

いずれ人工呼吸器が必要になるのは明らかだった。これからのことを考えると怖くてしかたがない、とメタは言った。

鎮静剤を投与したあと、彼女がもう2度と目を覚まさない可能性はゼロではなかった。しかし、感染の危険がある以上、夫や子どもや友人たちに会うことはできない。

メタは深い孤独のなかにいた。

そのときの彼女のようすは見るに忍びなかった。やがてメタは感情を抑えきれなくなり、大声で泣きはじめた。それが迫りくる死への恐怖のせいなのか、愛する家族にさえ自分の思いを伝えられない苦しみのせいなのかは、私にはわからなかった。

「スマートフォンでメッセージビデオを撮るのはどうだろう?」と私は提案してみた。少しでもメタの気持ちを落ち着けてあげたかったからだ。

メタはそのアイデアを気に入ったようだった。でも、私が気を遣って部屋から出ようとすると、彼女は「ここにいてほしい」と言った。

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