私は言われたとおり、防護服を着たままベッドサイドに腰を下ろし、愛する人たちに語りかけるメタの姿を彼女のスマートフォンで撮影した。
落ち着きを取り戻したメタ
ビデオを撮っているあいだ、メタは驚くほど落ち着いていた。さっきまで彼女を支配していた混乱は、影もかたちもなくなっていた。もしかしたら、家族に余計な心配をさせないように、必死に感情を抑えていたのかもしれない。
私はその間、自分が邪魔者だという気持ちをぬぐえずにいた。メタが心の奥底で何を思っているかなんて、できれば聞きたくなかった。
とはいえ、途中でやめるわけにもいかないので、私はその場にとどまった。こうして私は、メタの人生における最もプライベートな時間を共有することになった。
彼女は最後まで落ち着きを失わなかった。もう2度と家族に会えないかもしれないという状況でそんなふうにふるまえる彼女の強さに、私は心から驚いていた。
冷静な口調で話す彼女と向き合いながら、私は自分にこう言い聞かせた。メタがこんなにも懸命に感情を抑えているのに、私が泣くわけにはいかない、と。何度も嗚咽が漏れそうになったが、私は必死にこらえつづけた。
あの日の記憶は、いまでも頭のなかの手の届かない場所にしまってある。思い出したらきっと……涙があふれてしまうからだ。
その後、事態は急展開を見せた。鎮静剤が投与される前、メタは私たちにいくつかの指示を出してきた。「このカテーテルを使いなさい」「こまめに足に触れて、体温が下がっていないかを確認しなさい」といったことだ。
病気で苦しんでいるのは自分だというのに、メタは最後まで医師としての仕事をまっとうしたのだ。そんな彼女を見て、私たちの顔には自然と笑みが浮かんでいた。
まもなく、メタはうつ伏せに寝かされたまま眠りに落ちた。私たちにできるのはそこまでだった。あとは……彼女しだいだ。
ところが、彼女はその日のうちに別の病院に移されることになった。同僚たちが、「メタの治療にあたるのがつらい」と言ったからだ。
私は最初、彼らがなぜそんなことを言うのか理解できなかった。メタは私たちの仲間なのだから、私たちが面倒を見るのが当然だと思っていた。
でもその後、私も同僚たちと同じ気持ちになった。
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