ギタリスト「村治佳織」が大病を経て気づいたこと 心は1秒で明るくもなれるし、暗くもなれる
── 村治さんご自身は、これからの40代をどう過ごしていきたいですか。
30歳になった時、30代は仕事でもプライベートでもいろんなことができるなぁと思って、「優雅なる闘い」というテーマを考えたんです。闘いというのは勝ち負けじゃなく、自分を貫いていく闘いです。でもあまりギスギスしたくないから、優雅なるってつけたんですけど、結果的に大病しちゃったし、言葉って怖いなと思ったんですよね。
だから40代の今は、「豊饒の時代」って思いながら生きています。で、50代は「黄金」にしようかなと思ってるんですけど。私は“言霊”ってあると思うので、いい言葉をイメージしていると、言葉がそこへ連れてってくれるような気がします。
── “豊饒”を生きるうえで、今どんなことを大切にしていますか。
私の場合は、がむしゃらに目標を立ててやるより、来たものに対して柔軟に飛び込めるよう自分のお皿を大きくしておきたいと思うので、常に動けたり、感動できたりする柔らかな心を大事にすることですかね。
あと、この歳になって、疲れた時に、やっと、ぼ~っとできるようになりました。10代、20代の頃は、午前中、ベッドの上でゴロゴロすることに罪悪感があったんです。でも今は、 何も生み出さない無為の時間があってもいいやと思えるようになりました。大人になりましたね(笑)。ただ、毎日基礎練習をしないと筋力は下がってくるので、そこはコツコツ頑張っています。
道具であって道具でない、ギターという存在
── あらためて、ご自身にとってギターはどんな存在ですか。
道具であって道具でない、同士みたいなもので、絶対的信頼感があります。自分を輝かせてもくれるし、常に高めなきゃって気持ちにもさせてくれるし、弾く音によって邪悪なものから遠ざけてくれるものでもあります。ギターという楽器への信頼感がものすごいので、それと同じような信頼感を人と築き続けるのはなかなか大変なんです(笑)。何も言わずに、ここで待っていてくれる存在っていいですよね。
── 本当に心強い存在なんですね。
そうですね。演奏を通して、人様にもそういういい気持ちをもっていただけたらいいなぁと思うんです。加えて、今後は、ギターを友達にしてもらえるような楽しい提案もしていけたらなと思っています。
── 「何事もいい方向から見る」という村治さんの姿勢はとても素敵ですが、そんなふうに考え方をポジティブに転換させるコツはありますか。
心って、変えようと思えば1秒で変えられると思うんです。1秒で明るくもなれるし、暗くもなれる。なので私は、身に起きるさまざまなことも、事実として一回は受け入れたうえで、自分にとってワクワクできる言葉や考えが浮かんでくるのを待ったり、他の人からヒントをもらって、明るい方向に転換しています。
それと、心が疲れている時は、身体が疲れてることも多いので、そんな時は何も考えずにぼ~っとしたり、身体を横たわらせて休むようにしています。そういう心身のコントロールは、仕事への向き合い方や、人生をどう楽しむかにもつながっていく気がしますね。
(文/浜野雪江 写真/富井昌弘)
1978年、東京都生まれ。クラシック・ギタリスト。幼少の頃より数々のコンクールで優勝を果たし、15歳でCDデビュー。フランス留学から帰国後、積極的なソロ活動を展開。2003年、英国の名門レーベル・DECCAと日本人初の長期専属契約を結ぶ。出光音楽賞、村松賞、ホテルオークラ音楽賞、ベストドレッサー賞、ブルガリアウローラアワードなど数多くの賞を受賞。2018年9月にリリースしたアルバム『シネマ』で日本ゴールドディスク大賞を受賞するなど、精力的な音楽活動の傍ら、テレビ番組やラジオ番組ナビゲーターなどのメディア出演も多い。著書に『いつのまにか、ギターと』(主婦と生活社刊)ほか。
オフィシャルHP/http://www.officemuraji.com/
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