「進化の奴隷」にならず「幸福」に生きるための秘訣 哲学と心理学から導かれる「正しい幸福論」

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「幸福」を哲学と心理学という2つの学問から考える(写真:molchanovdmitry/iStock)
ストレスの多い現代社会を生きるなかで、幸福になるためにはどうしたらよいのか? その答えは哲学と心理学から導かれる。『21世紀の道徳 学問、功利主義、ジェンダー、幸福を考える(犀の教室)』を著した気鋭の批評家、ベンジャミン・クリッツァー氏が、著書の内容をもとに、現代人がより道徳的に、幸福に生きるための秘訣を解説する。

人間は「進化の奴隷」ではない

このたび、拙著『21世紀の道徳』を上梓した。本書では、倫理や幸福という問題について、哲学と心理学という2つの学問を両輪としながら考察している。この本には、古代ギリシアのプラトンから「最も影響力のある現代の哲学者」とも呼ばれるピーター・シンガーまで、さまざまな時代の哲学者たちが登場する。そして、科学的な心理学の知見によって、哲学者たちの主張が補完されているのだ。

とくに参考にしているのが、人間の心理メカニズムは先史時代の狩猟採集民たちが生きてきた環境に適応するために進化してきたものであると仮定する、「進化心理学」だ。本書では、「わたしたちにはなぜ道徳に関する感情や利他心が備わっているのか」「わたしたちはどのように生きれば幸福を得られるか」という問題について、進化の観点から検討している。

学問としての進化心理学は20世紀の後半に発展した。それから多くの学者や著作家が紹介してきたことで、現在では、進化心理学の考え方は人口に膾炙(かいしゃ)しているようだ。しかし、進化心理学を紹介する議論では「しょせん、人間は動物だ」「わたしたちの感情や認知は環境に適応するために発展したものにすぎない」という、ニヒリズム的な主張がなされることが多い。

だが、人間とは「理性」を持つ存在である。わたしたちに備わっている感情や認知のパターンは、たしかに、進化のメカニズムによってつくられてきたものだ。しかし、人間は「進化の奴隷」ではない。自分たちの感情や認知の背景にあるメカニズムを理解することで、それに支配されずに、道徳的な判断や幸福になるための行動を主体的に選択することができる。

たとえば、道徳に関する感情は、数十人から100人程度しかいない狩猟採集民の小さく同質的なコミュニティーという社会環境に適応するために進化してきたものである、と考えられる。そのため、コミュニティーの規模がずっと大きくなりコミュニティー内部の多様性も増した現代社会では、感情だけに基づいた判断は問題を解決せずに悪化させるリスクが大きい。

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