ぼくたちが「資本の原理」から逃げ出すべき理由 奈良県東吉野村で生まれた「土着の知」の行き先

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しかしこれはまったくくフェアではありません。なぜなら、最初のスタートラインが人それぞれ異なるからです。例えば、親の所得格差が子どもの学力に大きく影響していることは言うまでもありません。

さらにこの点を、白井さんは「新自由主義」という用語で説明しています。

新自由主義、ネオリベラリズムの価値観とは、「人は資本にとって役に立つスキルや力を身につけて、はじめて価値が出てくる」という考え方です。(中略)資本の側は新自由主義の価値観に立って、「何もスキルがなくて、他の人と違いがないんじゃ、賃金を引き下げられて当たり前でしょ。もっと頑張らなきゃ」と言ってきます。それを聞いて「そうか。そうだよな」と納得してしまう人は、ネオリベラリズムの価値観に支配されています。(71頁)

これこそがぼくの言う「資本の原理が支配する世界」であり、現代なのです。「資本の原理」について、マルクスの思想を読み解いた白井さんが以下のようにまとめています。

「物質代謝の大半を商品の生産・流通(交換)・消費を通じて行なう社会」であり、「商品による商品の生産が行なわれる社会(=価値の生産が目的となる社会)」(31頁)

本当はまず物質があり、その物質同士を交換して生活は営まれていたけれども、縁をベースにした物々交換が不便であったために貨幣(お金)を媒介させることによって、その物質は「商品」となった。物質は結果的に「商品」になったのです。現代の特徴は、物質代謝の大半が商品を通じて行われていることにより、「商品以前」の状態がまったく見えなくなっていることです。

ぼくたちはこの事実が腑に落ちるまでに、「山村で自宅を図書館として開く」という迂回路を経る必要がありました。

「資本の原理」ではない「別の原理」の存在

冒頭に述べたとおり、ぼくたちは山村に住み、自宅を図書館として開いています。図書館では本を貸し出しするだけなので、その本は「商品」ではありません。そして図書館の掃除や書架の整備、本の管理などをすることで対価を得ていないので、ぼくたちもこの時間は労働力という「商品」になることはありません。まずは「商品以前」の状態を知ること。これが「社会の外に出る」ということです。

「なぜ図書館をやっているのか、意味がわからない」と言われることが多々あります。なぜ意味がわからないのか。それは「資本の原理」にのっとっていないからです。要するに、現代に生きるぼくたちは商品でないものを判断することができなくなっている。しかし一見そのような「意味がわからない」ものやことにこそ、「社会の外」に出るヒントがあります。

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