世界の知性が考える資本主義を続ける哲学的根拠 世界の知識人が注目!ムーア「資本新世」の慧眼

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斎藤:この本って、けっこう論争的な側面もありますよね。ムーアが、エコ・マルクス主義やエコ・ソーシャリズムに対して強く批判するのはなぜでしょうか。

山下:ムーアの立場に立って考えると、彼は資本主義をなくしたいと思っているんですね。そして資本主義をなくすには、一元的な立場に立つほうがいいと診断するわけです。他方で、ムーアが批判するジョン・ベラミー・フォスターやアンドレアス・マルムのような二元論者も資本主義を転覆したほうがいいと思っている点では一緒です。だから、目指すところは同じなんですね。

ただ、一元論と二元論の違いは戦術の違いとなってあらわれます。フォスターやマルム、あるいは日本であれば斎藤幸平さんの場合、「このままだと企業活動も消費活動もたちいかなくなります。なぜなら資本主義のハードな限界が目前に迫っているからです」という論法で危機意識を訴える。そういう切迫感の語り口で、企業や消費者の行動を変えようとしています。

しかし、ムーアに言わせれば、そういう言説は危機の実態を正確に描くことを怠った脅迫的な説得のレトリックだと。それを説得のレトリックと自覚して、使いこなせているうちはいいかもしれない。でも、そのうち説得のレトリックの奴隷になってしまったらどうなるか。ムーアはアカデミックに誠実な人なのでこういう乱暴な言い方はしませんけど、私の解釈するところでは、その行き着く先はエコ・ファシズムになりかねないということでしょう。

ムーアが「人新世」という言葉を嫌って、「資本新世」という言葉で言い換えようとするのも、「人新世」という言い方が、一方に大文字の「人間」を置き、他方にその外部にある大文字の「自然」が置いて、その「自然」に「人間」が逆襲されるというストーリーへの回収を誘う危険を感じ取っているからです。現在の環境危機は、むしろ資本主義と自然とが互いに互いを作り出してきたところから生じており、資本主義の外側にある自然の逆襲という二元論的見方では、危機のリアリティ自体を掴みそこねてしまうというのが彼の主張です。

二元論をとるかぎり、「資本主義がハードな限界にぶち当たるのは、歴史の必然なのだから、転換しなければいけない。それにもかかわらず、転換しない人間は、未来社会に対する裏切り者だ」というロジックになりますが、それではかつてのマルクス主義と同じ轍を踏むだけだろう、というのがムーアの見解だと思います。

資本主義は何度も内的変化を遂げてきた

斎藤:前編で、山下さんは、ムーアの議論を敷衍すると、資本主義終焉論とは異なる道が見えてくるとおっしゃっていました。ムーア自身は、将来に対する処方箋については語っていませんが、山下さんがお考えになる「出口」とは具体的にどういうものでしょうか。

山下:フランスの社会学者リュック・ボルタンスキーとエヴ・シャペロが書いた『資本主義の新たな精神』(ナカニシヤ出版)という本では、資本主義はこれまで内的な変革を何度も遂げてきたことが説明されています。

資本主義は格差や疎外と切り離せないところがあって、本質的に後ろめたいものです。だから、資本主義を正当化するロジックがつねに要求される。ごく大雑把に言えば、19世紀では資本主義は利己的であるという批判に対して、20世紀に入るとフォーディズムという処方箋が出てきました。生産性が上がるとその分賃金も上がる。すると、耐久消費財がより安くなると同時に、それを買える購買力も上がって好循環をもたらす。これは資本家の自己利益にだけ奉仕する体制ではなく、労働者の福利にもつながっていますよと資本主義を正当化したわけです。

しかし、そのフォーディズムが今度は、労働者を工場の歯車にするな、もっと人間らしい生活を送らせろという批判をまねきます。そこに出てきたのがポスト・フォーディズムです。すなわち、個人の創造性を発揮できるようにフレキシブルな働き方や制度を是とした。仕事で個性を発揮して自己実現をしましょう。そうやって、疎外を生み出すと批判された資本主義を正当化しようとしたんですね。

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