「最低賃金も稼げない」米国ギグワークの衝撃実態 労働者の多くが移民、もしくはマイノリティー

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そもそも、ギグワークを含めた「シェアリングエコノミー」は金融危機の落とし子だ。失業や不況による収入減をギグ(インターネットによる単発の仕事)で賄い、モノやサービスを共有し合うコミュニティー型経済。例えば、民泊仲介大手のエアビーアンドビーや家事代行サービスのタスクラビットは2008年、ライドシェア最大手のウーバーテクノロジーズは2009年の創業だ。

「金融危機当時は、仕事が見つからない新卒がギグワーカーとして収入を得ながら労働市場の回復を待つという例が多かった」

そう語るのは、アメリカの東部マサチューセッツ州のボストン・カレッジ社会学部でシェアリングエコノミーやギグエコノミーについて研究するジュリエット・ショア教授だ。

ギグワーカーが搾取されている実態を調査し、解決策を提案した『After the Gig: How the Sharing Economy Got Hijacked and How to Win It Back』(『アフタ・ザ・ギグ――シェアリングエコノミーはいかに乗っ取られたか。そして、いかに奪い返すか』未邦訳)の著者であり、格差問題にも詳しい。

「そして今度は、コロナ禍で失業した人の多くがギグワーカーに転じた。ギグワークは『社会福祉プログラム』の一面を備えている」と、同教授は指摘する。

実質賃金が貧困ラインにすら達していない

だが、ショア教授の研究結果から、フルタイムでギグワークに携わっている人々の大半の実質賃金が貧困ラインにすら達していないことがわかった。まず、経費がかさむ。次に配達員が多すぎることで、仕事を得るまでの待ち時間が長い。多くの場合、労働時間の約3割が待機時間だという。もちろん、無給だ。

聴き取り調査に応じた、ある男性ギグワーカーの実質賃金は時給6ドルだったという。州や都市の最低賃金を大幅に下回る連邦法定最低賃金でさえ、時給7.25ドルであり、マサチューセッツ州は13.5ドルで、2022年1月には14.25ドル、2023年1月には15ドルに上がる。ニューヨーク市の現行最低賃金は15ドルだ。

また、ショア教授によると、ギグワークには「サーバント(使用人・奉仕者)エコノミー」の側面もある。従来、富裕層が雇うハウスキーパーやお抱え運転手などのサービスをアプリで気軽に利用できるのがギグエコノミーだ。そして、サービスを提供するのは、若い移民をはじめ、ヒスパニック系や黒人、一部アジア人などのマイノリティーが大半だ。

本来なら中流層にはかなわない「特権的贅沢」が可能になった背景には、「大規模なギグワーカーの搾取」(ショア教授)がある。ギグワーカーに適切な賃金を払えばサービス価格は跳ね上がり、多くの人が利用できなくなる。「ギグエコノミーは、そうした『矛盾』の上に成り立っている」(同教授)。

「いい仕事に就くチャンスに恵まれないマイノリティーの若者が、ギグワーカーとして搾取されている」と、ショア教授は分析する。

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