「コロナで路上生活」38歳元派遣の"10年前の後悔" 非正規の若者たちを取材して浮かんだ共通点

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風向きが怪しくなったのは働き方改革が始まってから。残業時間が激減し、そこにコロナ禍が追い打ちをかけた。

手取りは月16万円ほどと、かつての3分の1以下に落ち込んだ。まさかそんな事態になるとは思っていなかったので、貯金もない。正社員にはある住宅手当などの福利厚生もない。家賃と通院費を差し引くと、手元に残る生活費は生活保護水準と変わらなかった。結局家賃を滞納。2020年の暮れからネットカフェ暮らしになったという。

そして5月の雇い止めである。理由は異動してきた上司と折り合いが悪かったからだと思う、とツトムさんはいう。上司の胸三寸次第でクビになるなど、正社員であれば少なくとも表向きにはありえない。

かつて正社員にならないかと熱心に勧めてくれた人事担当者が手を差し伸べてくれることはなかった。すでにネットカフェ暮らしだったツトムさんが路上生活になるまでにそう時間はかからなかった。

意外と耳にする「正社員になりたくない」という声

ツトムさんとは、市民団体でつくる新型コロナ災害緊急アクションの駆けつけ支援を取材する中で出会った。同アクションにSOSを発信してくる人の多くは派遣やアルバイト、契約社員といった非正規労働者だ。正社員だったというケースはほとんどない。ただ、正社員登用の誘いを断ったとか、あるいは正社員にはなりたくないという話は意外と耳にした。

大手チェーン系列のホテルで働いていた契約社員の30代の男性は、正社員にならないかという誘いを何度か受けたが、そのたびに断っていた。その理由を「正社員になると責任が生じるから」と説明する。

この男性は今年1月、コロナに感染したことを理由に解雇された。明らかに違法である。しかし、男性は「ユニオンや労働組合に相談して騒ぎ立てたくない。周りに迷惑をかけたくない」といって特に抗議や抵抗することなく、解雇通告を受け入れた。

寮付き派遣を雇い止めにされ、生活保護を申請したら悪質な無料低額宿泊所に放り込まれた20代の男性(筆者撮影)

また、寮付き派遣で、大手自動車メーカーや精密機械関連の工場などを転々としてきた20代の男性はコロナ禍で仕事を失った。

寮からも追い出され、生活保護の申請をしたところ、劣悪な無料低額宿泊所に入居させられ、新型コロナ災害緊急アクションに「豚小屋のようなところに入れられてしまった」と助けを求めるメールを送ってきた。

散々な目に遭ったようにもみえるが、この男性はコロナが収まっても、正社員の仕事を探すつもりはないという。理由はやはり「正社員になると責任が生じるから」。

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