6年前の父に「今の私」伝えた彼女の時空超えた旅 小説「さよならも言えないうちに」第4話全公開(3)

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父を追い返してしまったあの日。床に叩(たた)きつけて散乱したお土産の中にこのたこ焼きを見つけて、たとえようもなく苛立った。大好きだった母との思い出を利用して機嫌を取ろうとしているように思えた。卑怯(ひきょう)だ。嫌悪すら感じていた。

(でも、違う。そうじゃない。今ならわかる)

父は、私を喜ばせるためにこのたこ焼きをわざわざ買ってきてくれたのだ。

それなのに……。

「ありがと」

声が震える。まともに賢吾の顔を見ることができない。

沈黙をつなぐために、路子はカップを口に運ぶ。

(ぬるい)

このコーヒーが冷めきるまでというが、路子には、あとどれくらいの時間が残っているのかまったく想像できなかった。

(私は一体、何をしに来たんだろう?)

父に一言謝りたい。その気持ちは変わらない。でも、一体何を謝ればいいというのか?

「東京の大学に行きたいなんてわがまま言ってごめんなさい」

「お母さんがいなくなってから文句ばかり言ってごめんなさい」

「いつも私が帰ってくるまで寝ないで待っててくれたのに、冷たい態度ばかりでごめんなさい」

「お父さんがかけてくる電話を、ずっと無視してごめんなさい」

「口答えしてごめんなさい」

「喧嘩ばかりでごめんなさい」

「私なんかが娘でごめんなさい」

考えれば考えるほど、路子は顔をあげることができなくなってしまった。

(どうして、東京の大学に行ってしまったんだろう?)

(どうして、文句ばかり言ってしまったんだろう?)

(どうして、あの日、ひどいことを言って追い返してしまったんだろう?)

後悔の言葉ばかりが頭をよぎる。

そんな自分を、賢吾がじっと見つめているのだけはわかる。せっかく会いに来たのに、相変わらず何も言わない、かわいくない娘だと思われているに違いない。

(もう、帰ろう)

このコーヒーを飲みほしてしまえば終わる。結局、何をしたって父を助けることはできないのだから。

「困ってることがあるなら……、言っていいんだぞ?」

路子はカップを握る手に力を込めた。

その時だった。

「路子」

賢吾が路子の顔を覗き込みながら、語りかけてきた。

「もし、何か、困ってることがあるなら……、言っていいんだぞ?」

賢吾はとぎれとぎれに、言葉を紡ぐ。

「なんでもいいんだ、一人で悩まずに、どんなことでも……、悩んでるなら、相談してほしい」

「え?」

「お母さんみたいに、できないかもしれない……、でも……」

賢吾が顔をあげる。

「それでも、言ってほしい……」

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