1本300万円のウイスキー「山崎55年」が売れる訳 価値観の差の見極めがビジネスチャンスを生む
人間には、自分にとって都合の悪い情報を過小評価あるいは無視してしまう「正常性バイアス」と呼ばれる心理的な特性があります。そのためについ、「自分は普通」「自分が正しい」と思ってしまうもの。さらにいえば、自説を否定するニュースなどを目にすると不快な気持ちになり、「自説を補強する情報」だけを探してしまうこともままあります。
そのような事態を防ぐためにも、自分と違う文化で生きている人と触れ合うこと、対話することが重要です。たとえば、会社の部下のような上下関係にある相手だと、上司の説を否定しにくいかもしれません。その点、とくに初対面の人や利害関係のない人など、「自分がコントロールできない人」からのさまざまな意見を聞くと、基準点が増えて、平均値や中間値が見えやすくなるのです。
「普通ではない文化」を見ることも大事
これとは反対に、自分が「普通」側、マジョリティ側に近いと感じるジャンルが気になったら、私は背伸びを恥ずかしがらず、できるだけ「普通ではない文化・生活」を自分で見るようにしています。
以前、サントリーのウイスキー「山崎50年」が1本100万円で販売され、あっという間に完売しました。そして2020年には「山崎55年」が1本300万円、100本限定で発売されました。
皆さんは、この価格をどのように思うでしょうか。
私は「安すぎる」と感じました。個人的には1本1億円でも100本売れたのではないかと考えています。ちなみに2020年、「山崎55年」は香港のオークションで620万香港ドル(約8515万円)、「山崎50年」は東京のオークションで2800万円の値がついています。
これは、同社の担当者の方々が富裕層の「普通」の感覚を把握していないことで、価値観の差を掴みかねたのではないかと、個人的には推測しています(もし違っていたら、ぜひご指摘いただければと思います)。もちろん、「もっと高く売れる」とは思いつつ、自社の大切な商品を投機の対象にすることをよしとしなかった可能性や、一般層の反感を恐れた可能性もあるとは思うのですが、それにしても、300万円はあまりにももったいない値付けではないでしょうか。
「山崎」は、世界的な酒類の品評会でも数多く受賞するなど、もともと品質には定評がある上、そもそもいくらお金をかけようとも、熟成に費やした「55年という時間」を縮めることはできない。だからこそ、本当にお金を持っていて、かつ、そこに価値を見出す方々にとっては、1億円という値段でも決して高くはないと考えています。
もちろん、私自身にとっては100万円のウイスキーも十二分に敷居の高い買い物で、富裕層の「普通」を推測している部分も多々あります。ひょっとするとこの記事を読んで「1億円はさすがに高すぎる」と思うビリオネアもいるかもしれません。
しかし一部、推測や想像に頼らざるを得ない部分があっても、今後のビジネスを考える上で、とくに中小企業やベンチャー企業の経営者にとっては、(一般の人の「普通」レベルを十分に理解した上で)裕福な人たちの文化を知ろうとする努力は欠かせないものになると考えます。
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