1本300万円のウイスキー「山崎55年」が売れる訳 価値観の差の見極めがビジネスチャンスを生む

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「価値観の差」がある現場に足を運び、そこで適正価格として売られているモノを安く仕入れるのは、一般的な商行為であって、単なる「買い付け」です。

こうした「価値観の差」でビジネスをするためには、幅広い文化に触れることが重要です。

たとえば、富裕層の生活様式にどれだけ詳しくても、一般家庭の生活様式を知らなければ、広い層に受け入れられる新しい家電製品を生み出すアイデアは思いつかない。あるいは大航海時代の前後に、南アジアや東南アジアで大量の胡椒を所有していても、自分たちと価値観が違う「大金を積んででも胡椒を買ってくれる人たち」の存在を知らないと、巨大なビジネスにはできません。

自分たちとは異なる文化を知ることで、より大きな利潤をもたらす「価値観の差」を発見できるようになるのです。

「普通」を知ることがビジネスのチャンスに

「文化」というと高尚な感じがしてしまうかもしれませんし、業種によっては本当に深く、レベルの高い理解が必要なジャンルもあるかもしれません。ですが、一般的なビジネスにおいては、その文化の「普通」レベルの理解を意識すれば、ひとまず問題ないでしょう。

醤油メーカーのキッコーマンは、1950年代後半にアメリカに進出し、1970年代には現地に工場をつくって製造を始めました。醤油に縁のないアメリカ人に醤油を買ってもらうために彼らが考えたキャッチフレーズが「Delicious on Meat」。日本食にしか使えない調味料ではなく、「肉を美味しく食べられるソース」であるとPRしたのです。

肉のタレとして醤油を使う「Teriyaki」のアイデアが広くアメリカ人に受け入れられたこともあって、現在では現地に完全に定着。2021年3月期では、同社の売り上げは北米が約2049億円(利益は約204億円)、日本が約1846億円(同約130億円)と、大きな利益をもたらす市場になっています。

この例でいえば、日本の一般家庭での醤油の使われ方だけでなく、アメリカの一般家庭での調味料の使われ方や、よく食べられる料理の味などを知ること、いわば「アメリカ人の食卓における普通」を掴むことで、醤油の入り込む余地を考えられるようになります。

このような「普通」が見えない状態で、先ほどお話しした「価値観の差」を見つけるのは簡単ではありません。また、ニッチな分野で勝負したい場合も、その分野の主流を知っているからこそ、より精密な差を掴むことができます。ですから、まずは「普通」を知るのが重要なのであり、必ずしもその文化の専門家になる必要はありません。

こうした「自分たちとは違う文化」を学ぶ上で気をつけたいのが、自分の主観を「普通」だと信じてしまうこと。「普通」を判断するための基準点が少なすぎると、こうした状態に陥ってしまいがちです。「価値観の差」からビジネスチャンスを見出すには、「差」がわかるだけの複数の立脚点を持つことが大切になるのです。

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