さらに、ICT革命に伴い、1990年代には、ICT業界だけでなく、他の多くの業界でも無形資産への投資が広がりました。アメリカを筆頭に、他の国々でも小売や金融、旅行などさまざまな業界で、コンピューターとソフトウェアを使った業務形態の変化が始まりました。
例えば、銀行や旅行会社、航空会社は業務のオンライン化を推進しました。無形資産とは無縁と考えられていた運輸業界までもが、業務形態を変えるために無形資産への投資を余儀なくされたのです。
産業構造における無形資産への投資は、革命と呼べるような劇的な変化で、ICT業界にとどまらず、幅広い産業分野にまたがる現象になっていったのです。
――そして、その傾向は、今日まで続いているということですね。
ハスケル:さまざまな局面で増減を示しながらも、大きな潮流としてはそのとおりです。1990年代前半にアメリカで無形資産への投資が有形資産の投資を上回って以降、他の諸国にも同様の傾向は波及し、無形資産への投資でアメリカを追い上げました。それは今も続いています。
2008年に端を発した金融危機以降は無形資産への投資が鈍化しましたが、世界的に長期的な増加傾向であることは間違いありません。
芸術家が資本家になる
――現在、新型コロナウイルスの影響で、社会のデジタル化に拍車がかかっています。無形資産の増大は、経済にどのような影響を与えるとお考えですか。
ハスケル:コロナ禍において無形資産が経済発展をもたらす可能性はいくつかあると思います。一つは、状況改善につながる良い変化を生む可能性です。
例えば、私はこれまで週5日出勤することや、通勤に長時間かけることにストレスを感じ、違和感を抱いていました。一方で、コロナ禍でのロックダウンによって通勤しなくてよくなった今、それにも違和感があり望ましくないと感じています。私としては、その中間がよいと思っているのです。コロナをきっかけに、それが実現するかもしれません。
これが無形資産とどう関係するのか考えてみましょう。ホワイトカラーや専門職の人々の多くがリモートで仕事ができるのは、通信手段や機器の発達のおかげです。パソコンやインターネットを使ったオンライン会議で、場所に縛られずに仕事ができるからです。
しかし、現状では、多くの人はそのような働き方ができません。接客などリモートでは難しい仕事があるのはもちろんですが、企業の事業マネージメントの制約でリモートワークが進まないケースも多く見られます。
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