超天才ダ・ヴィンチに「解剖学」が必要だったワケ 「美術解剖学」の知られざる世界
解剖学も美術解剖学も「未完成な学問」
「解剖学は完成した学問で、すでに人体の調査は完了している」と思っている方もいますが、実際に人体解剖に関わっていると、見方や表現の仕方がわからない構造をたくさん目にします。
昨今わかってきた例として「筋の裏面」があります。筋の裏面はこれまで専門的な研究で部分的に掲載されていましたが、最近になって『人体の骨格筋 上肢』(医学書院)という書籍としてまとめられました。「筋の裏面を見る」というシンプルなアイデアすら実現しにくいのですから、人体の観察が完了していないのは容易に想像できるでしょう。
美術解剖学でも同様に新しい表現が生まれています。ここ最近の海外の美術解剖学書を中心に人気を博している図に「トポグラフィー」があります(図4)。
トポグラフィー(topography)は「地勢図」のことで、美術解剖学では体表の起伏を視覚的にわかりやすく伝えるために使用されています。医学の解剖学書には使用されていない方法で、今のところ美術解剖学でのみ発展しています。体表の起伏を重視する美術解剖学ならではの図といえます。
人体の構造は、さまざまな見方や表現方法をすり合わせることによって理解が深まっていきます。クラシックな解剖図だけでなく、新しい美術解剖学の表現方法も学んで、知識を充実させてはいかがでしょうか。
なお、美術解剖学の教科書は、内容の信頼度がピンからキリまであります。内容が間違っていたり、十分な理解がない理由の多くは解剖を体験していない著者が執筆しているためです。解剖を体験せず、構造を十分に把握できていない人が他者に伝えると、わからない部分を推測で補い、「伝言ゲーム」のように情報が変容していきます。そして、多くの読者は専門知識を持たないので、そうした誤解や誤訳を選別することができません。
誤った情報を避けたい場合は、なるべく解剖を体験した著者の書籍と内容を比較しながら学ぶのがよいでしょう。
解剖を体験している著者が書いた美術解剖学の教科書としては、
『エレンベルガーの動物解剖学』ヴィルヘルム・エレンベルガー/著(ボーンデジタル)
『ゴットフリード・バメスの美術解剖学コンプリートガイド』ゴットフリード・バメス/著(ボーンデジタル)
などが挙げられます。現代の日本の美術解剖学関連の著者では、東京藝術大学の布施英利先生や東京造形大学の阿久津裕彦先生などが人体解剖を体験し、京都精華大学の小田 隆先生などが動物解剖を体験しています。私も人体解剖を体験している美術解剖学の著者の1人です。
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