超天才ダ・ヴィンチに「解剖学」が必要だったワケ 「美術解剖学」の知られざる世界

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解剖学より美術解剖学の方がくわしい構造もある

医学系の解剖学は、体表から観察できる情報があまり充実していません。解剖図も皮膚と皮下組織を除去した状態で表現されます。そのかわり「触覚的な情報」が多くなっています。例えば、筋をずらしたり、一部を切断してひるがえしたりした状態などが描かれます(図2)。こうした触覚的な情報は、解剖実習や手術などの臨床体験に結びついています。

一方、美術解剖学では「生きた人の体表の形」が重視されます。美術向けの解剖図では、しばしば体表の輪郭が描かれ、体表との距離などを理解しやすくするための配慮がなされています。

美術解剖学が体表の観察を重視した結果、本家の解剖学よりも詳細な情報が記載されていることもあります。例えば、体表の起伏に影響する「筋膜」です。筋膜とは、筋肉の表面を覆う結合組織でできたシート状のさやで、部位によって厚みが異なります。とくに、分厚い部分では筋肉を押さえつけて変形させるため、体表の起伏に影響します。その代表例として、力を抜いて立ったときに膝の上に現れる溝があります。

この溝をつくる筋膜の肥厚部は、紀元前6世紀ごろの古代ギリシャ彫刻から見られる美術になじみのある構造です。今から約130年前にポール・リシェという美術解剖学の専門家が解剖して明らかにしました(図3)。

図2 同一作者による同じ部位の医学用の筋肉図(左側)と美術用の筋肉図(右側)
図3 膝上に溝を作る筋膜の図(左)と古代ギリシャ彫刻に表現された膝上の溝(右)。筆者撮影
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