超天才ダ・ヴィンチに「解剖学」が必要だったワケ 「美術解剖学」の知られざる世界

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「解剖学」と「美術解剖学」の違いとは……?(写真:Gilmanshin/PIXTA)
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「美術解剖学」は、視覚芸術のための解剖学教育のことで、医学の解剖学から派生した応用解剖学の1つです。人体や生物の皮下にどんな構造があるのかを知ると、次に観察したときに体表からそれらの構造を判別できるようになります。
ルネサンスでは、この一種の「透視能力」によって人体像の表現力が飛躍的に向上しました。その後、フィレンツェ(イタリア)に世界初の美術学校ができると、以降、世界各地の美術学校で解剖学の授業が導入されていき、現代に至ります。『名画・名彫刻の美術解剖学』の著者である加藤公太氏(順天堂大学医学部助教)に「解剖学」と「美術解剖学」の違いを伺いました。

骨と筋肉を学ぶのが美術解剖学か?

現代では「人体の外形に影響する骨と筋肉の働きを学ぶのが美術解剖学」と思われていますが、150年前には内臓が掲載された教科書もありました。ですので、一概に「美術解剖学=骨と筋肉」とは言えないようです。

とはいえ、「内臓の知識をどのように美術と結びつけるのか?」と、ピンとこない人も多いでしょう。

例えば「受胎告知」という美術のテーマがあります。「受胎告知」を突き詰めようとすれば、「妊娠のしくみ」について考える芸術家が現れてもおかしくありません。そうした芸術家の1人が、レオナルド・ダ・ヴィンチでした。「受胎告知」では実際に胎児を表現しないとはいえ、知らないことは実感を持って表現できません。レオナルドは内臓の解剖図や、子宮に包まれた胎児の素描を取材するように残しています(図1)。

したがって、医学と美術で扱っている内容に大きな違いはなく、「解剖学の知識を医学に用いれば医学の解剖学」、「美術作品に用いれば美術解剖学」と言えそうです。解剖もしくは美術解剖学を体験した代表的な芸術家は、

 レオナルド・ダ・ヴィンチ
 アルブレヒト・デューラー
 ミケランジェロ
 ピーテル・パウル・ルーベンス
 レンブラント・ファン・レイン
 オーギュスト・ロダン
 コンスタンティン・ブランクーシ
 エゴン・シーレ

などです。彼らの作品は、皮下の構造がきちんと表現されているので、解剖学を学ぶと作品をより深く鑑賞できるようになります。

図1 レオナルド・ダ・ヴィンチ「ウィンザー手稿」の胎児の図(1511年ごろ、英王室所蔵、筆者撮影)
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