吉村vs枝野「勝敗を分けた話し方」プロが大研究 「他党批判ばかり…」総選挙で見た「戦略の違い」

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こうした「自己犠牲アピール」は、コミュニケーション戦略としては実に強力です。

私は、「コミュニケーションがうまい人がいる」という情報を仕入れれば、全国どこにでも足を運び、その話に耳を傾けてきました。あるとき、友達から「話が天才的にうまい投資家がいる」と聞き、その話を聞きに行きました。その投資家は確かに言葉巧みでした。

なかでも非常に印象に残ったのが、「私は自分のためにこういう情報を発信しているのではない。私は十分金持ちだ。でも、みなさんを金持ちにする手伝いをしたいから、こうやって手間をかけて、貴重な儲け話をみなさんに提供しているんだ」と力説していたことでした。

トランプ前大統領もこのレトリックをよく使いました。「私は十分金持ちである。大統領になることで儲けようなどとはこれっぽっちも思ってないんだ。だから報酬などいらない」。

「自分のために」ではなく「あなたのために」とアピールされると、人はつい信用してしまう。そうした「自己犠牲」精神を非常にわかりやすい言葉として、維新がキャッチフレーズ化したのが「身を切る改革」です。

「自分たちの身を削いでまで、あなた方のために、力を尽くすんだ」とたった一言で訴える強力なキーワードです。

一方で、立憲は麻生太郎氏による「立憲共産党」というラベル貼りによって、思想が先鋭化したことを印象づけられてしまいました。こうした「ワンフレーズポリティクス」によっても、両党の間に大きなイメージギャップが生じたのです。

このように、維新は巧みな「コミュニケーション戦術」によって、自民党が放棄してしまった「改革」の旗手として認知され、反自民の受け皿として、追い風を受けたというわけです。

「コミュニケーション」「話し方」は、成否の「9割」を握る

「コミュニケーション」や「話し方」を「表層的なもの」と軽視する人がいますが、政治においても、人生においても、ビジネスにおいても、「コミュニケーションや話し方は、その成否の9割を握る」といっても過言ではないでしょう。

「自己流で自己満足のコミュニケーション」では「共感」は得られない。選挙においても、科学的な知見に基づいた緻密な戦略が求められているということなのです。

岡本 純子 コミュニケーション戦略研究家・コミュ力伝道師

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おかもと じゅんこ / Junko Okamoto

「伝説の家庭教師」と呼ばれるエグゼクティブ・スピーチコーチ&コミュニケーション・ストラテジスト。株式会社グローコム代表取締役社長。早稲田大学政経学部卒業。英ケンブリッジ大学国際関係学修士。米MIT比較メディア学元客員研究員。日本を代表する大企業や外資系のリーダー、官僚・政治家など、「トップエリートを対象としたプレゼン・スピーチ等のプライベートコーチング」に携わる。その「劇的な話し方の改善ぶり」と実績から「伝説の家庭教師」と呼ばれる。2022年、次世代リーダーのコミュ力養成を目的とした「世界最高の話し方の学校」を開校。その飛躍的な効果が話題を呼び、早くも「行列のできる学校」となっている。

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