パワーゲームでは「一帯一路」も大事な役割を果たす。中国と国連が2019年に共同で創設した「一帯一路グリーン開発連合」には、国連環境計画をはじめとする20余りの国連機関のほか、一帯一路メンバー国の環境相らも参加する。表向きは持続可能な開発プロジェクトだが、米欧は「覇権拡大の手段」として警戒する。
中国は、再生可能エネルギーや脱炭素の関連製品のアメリカへの輸出を望む一方、安い中国製品の流入はアメリカには受け入れがたい。対立が続く米中関係において、気候変動対策は数少ない協力可能な分野として期待もされているが、こうした状況を考えると、気候変動対策をめぐってすら、米中の協力関係を本質的に発展することは容易でない。
米中が気候変動をめぐってすら協力を長続きさせられず、各国が技術の囲い込みや貿易の禁止に動く場合、競争や技術革新が滞り、気候変動対策のコストが上がって、脱炭素への動きを妨げかねない。
日本にとっての意味合い
環境政策で後れを取っている日本には、今後何が必要か。
まず、昨年末に政府が発表した「グリーン成長戦略」のもと、ほかでは代替できない自前の技術、製品を有して交渉力を持たなければ、アメリカやEUの協力相手になることはできない。中国のレアアース依存から脱却する電池を開発することは、脱中国依存という経済安全保障の観点で不可欠になるだろう。
また、環境分野で先行するEUは、温暖化対策が不十分な国からの輸入品に対し、事実上の関税をかける「国境炭素税」の導入を進めようとしている。EUでは鉄鋼、セメントなどエネルギーを多く消費する産業の事業所に排出枠が割り当てられ、それらの産業では、EUへ輸出を行う域外企業も同レベルの炭素価格の負担を行っていない場合には、課税されることになる。
例えば、鉄鋼製品あるいは鉄を使用している自動車、家電製品なども、将来的には課税対象になる可能性が高く、カーボンプライシングを導入していない国からの輸入品に課税することによって、EU域内の産業と雇用を守ろうとする。
日本でもようやくカーボンプライシングの導入と合わせ、国境炭素税についても検討を始めたところだが、米欧主導で不利なルールができる前に、日米欧共通のルールづくりを目指し、緊密な対話を行う必要がある。
(柴田なるみ/アジア・パシフィック・イニシアティブ 研究員)
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