米中対立を「中立的サプライチェーン」で生き残る 「生産分散」「技術的中立性」「地産地消」の3条件

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筆者は米中間で全面的なデカップリングが起こるとは考えていない。両国が核心的技術を囲い込むことにはなるであろうが、限定的な分野に留まると想定している。しかしながら、リスク管理の見地からは、最悪を想定しておく必要もある。先の米中貿易摩擦が制裁と報復の応酬で関税合戦へとエスカレートしたことを思えば、核心的技術の囲い込みによる「禁輸合戦」も思わぬ方向や範囲へと広がってしまうかもしれない。ここでは、最悪の事態、すなわち全面的なデカップリングが引き起こされる場合を想定してサプライチェーンの再編を考えたい。

デカップリングは米中間の貿易摩擦と技術覇権争いの構図が投影されたものになるであろう。貿易摩擦については、衣類、家具、履物、玩具など労働集約的な工程を多く含む製品については、「最終生産地がどこか?」が問題となるため、サプライチェーンの出口となる最終工程を中国やアメリカ以外に展開することが望ましい。その意味でベトナムへの生産立地の転換が進んでいるが、今度はベトナムの対米貿易黒字が問題になるなど、特定国に集中するとそれはそれでまたリスクとなる。

また、ベトナムは中国と同じ社会主義市場経済化国であり、アメリカが中国を国家資本主義だと非難する矛先が、何かの拍子にベトナムに向かわないとも限らない。つまり、ベトナムも多かれ少なかれ中国と似た事情を抱えていることは踏まえておく必要がある。中国に一極集中してきた生産拠点は「分散」が必要となる。中国でも作るしベトナムでもバングラデシュでも作るという体制が望ましい。また、中国で売るものは中国で作り、アメリカで売るものはアメリカかメキシコで作るという地産地消的な体制構築も有効である。

いずれにしてもサプライチェーンは、①生産分散によるリスク回避、②技術的な中立性確保、③地産地消の3つをうまくバランスしたところで折り合いをつけるしかなさそうである。また、企業は対立するどちらの陣営とも等距離であり続けることが重要であり、対立が解消された後の揺り戻しを勘案して構えておくことが求められるのである。

中立的サプライチェーンの認証機関

では、中立的であることを誰が証明するのかという問題である。生産した企業が中立であることを声高にうたっても、対立下にある国家は聞く耳を持たないであろう。また、日本政府が中立の認証をしても、日本はアメリカと安全保障条約を結ぶ同盟国であり、その認証を中国が受け入れるとは思えないのである。 

サプライチェーンが中立であり、使われている技術や素材も米中から見て核心的なものは使っていないことを証明するのは、個々の企業でも国家でもなく、産業界全体の利益を代弁できる経済団体しかないであろう。経済団体が音頭をとって、サプライチェーンに参加する企業が多い国・地域の産業界と経済協力の枠組みを構築する案である。民間主導で産業ごとの「中立化委員会」を作って、製品や部品に含まれる米中由来の技術や資源を洗い出し、代替案を議論するのである。

将来的にはハラール認証のような認証機関を超国家機関として設立して、「中立性」を証明する。中立的というのは、素材については産地がどこであるか、技術については含まれる特許の保有者が誰であるか、生産に関わる企業ついては両国いずれかが制裁対象としている企業と取引をしていないか、貿易摩擦の対象となる可能性があるため工場立地場所が米中以外であるかなど、確認していくことになるであろう。

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