米中対立を「中立的サプライチェーン」で生き残る 「生産分散」「技術的中立性」「地産地消」の3条件

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一方、輸入結合度が高かったのはベトナム(1.9倍)、日本(1.8倍)、ドイツ(1.3倍)であった。そしてアメリカとは輸出で0.8倍、輸入で0.5倍であり、2015年と比べてもほとんど横ばいで推移している。自動車部品について、中国はASEANおよび日本、ドイツと緊密な水平的分業構造を構築し、アメリカとの関係は米中対立によって大きな影響を受けていないと推定できる。自動車部品は大きくて重たいものが多いため、相対的に消費地(自動車生産地)に近いところに生産が集積していくことから、中国と北米市場との連結性は強くないのかもしれない。

また、ワイヤーハーネスなど電気機械(HS85)に分類される自動車部品もあるので、ここではあくまでもHS8708に限った自動車部品について議論していることにも留意が必要である。

さて、次に半導体(HS8541と8542)については、中国の輸出結合度が高い国・地域は韓国(2.7倍)、ベトナム(2.5倍)、インドおよび香港(2.1倍)、台湾(1.8倍)であった。インドを除くこれら国・地域とは活発な水平分業が展開されていると考えられ、輸入結合度も高くなっている。アメリカとは2015年比で結合度は低下しており、輸出で0.3倍、輸入で0.7倍となっている。逆に中国が半導体貿易で結合度を高めている国はベトナムであった。近年、スマートフォンやタブレットPCの生産移管が急速に進んだことが背景にあると考えられる。

レア・アース(HS2846)については、最上流にある素材であるため、水平的な分業を前提としない品目である。採掘されてそのまま貿易されるものを対象としている。産出地で加工されてから輸出される場合は、この品目コードではないコードに変更されるので把握できない。この点に留意して中国の結合度を確認すると、輸出ではオランダが19.5倍と極端に大きく、次いで日本(2.4倍)、フランスおよびアメリカ(2.1倍)、韓国(1.2倍)となっている。2015年比で輸出先として結合度が上昇したのは日本とアメリカだけであり、米中対立下でもレア・アースの貿易転換はなかなか進んでいないことがうかがえる。また、中国の輸入結合度が最も高いのは台湾(2.1倍)で、このほかには中国の輸入結合度が1.0を上回る国・地域はなかった。つまり中国からの一方的な輸出が多い品目であり、これは他国・地域でレア・アースの産出が少ないことによる。

上記の3品目について初歩的な考察だけで結論付けることはできないが、自動車産業と半導体については、サプライチェーンは比較的米中間ですみ分けされているように見える。地産地消的なサプライチェーンが自明である自動車産業は、アメリカで売る車と中国で売る車に使用する部品で、両陣営が核心的と考える技術や素材が含まれるのかを洗い出す必要がある。恐らく合金や磁石に使用されるレア・アース類や電子制御やセンサーに使われる半導体の技術特許などである。また、レア・アースについては既述のとおり、米中対立によってもなお、日米の対中依存は低下しておらず、代替が急がれる分野といえそうである。

サプライチェーン再編の行方

米中経済が連動性を断ち切り、デカップリングが世界経済の新たな秩序になるとしたら、世界経済は東西冷戦以来、再び分断されることになる。自由貿易の原則によって企業の自由な生産活動が保証され、高い経済合理性の下で完成したサプライチェーンも再編が必要となる。

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