米中対立を「中立的サプライチェーン」で生き残る 「生産分散」「技術的中立性」「地産地消」の3条件

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例えば、通信設備製造の日本企業が自社製品にこうした中国特許を気づかずに使用したり、あるいは抵触していないのに抵触していると言いがかりをつけられることもある。アメリカが中国ハイテク企業締め出しの動きを強めるならば、こうした中国特許を含むこの通信設備はアメリカに売れなくなる。それだけなく、日本の当該企業が制裁を受けることになれば、アメリカ企業との取引が停止されてしまう。アメリカとの取引が停止された企業と新たな取引をする企業はアメリカ陣営にはいないので、最終的に当該日本企業は「アメリカ系のサプライチェーン」から締め出されてしまうのである。

その後、この企業が中国系サプライチェーンに新規参入することは難しいかもしれない。すでに同じ機器を生産する競合企業があるうえ、この間までアメリカ系サプライチェーンの一部だった企業を中国は許さないからである。喉から手が出るほど欲しい虎の子技術でも持っていない限り、デカップリング下のサプライチェーンを企業が上手に渡り歩くことは難しいであろう。

そもそも国家とは異なり、グローバル企業はアメリカか中国かという二者択一を迫られる事態を何としても避けるべきである。企業にとって、中国市場もアメリカ市場も重要な市場であり、そのどちらかを選ぶことはできない。であるならば、国家は伝統的安全保障ではどちらかの陣営に身を置くことを選択できたとしても、企業は中立であることを貫くしか存続の道はない。

そして、もうひとつ重要な視点は、世界史を振り返れば、大国間の対立はいつか和解し、潮目が一気に変わる日がやってくるということである。どちらか一方の陣営にだけくみしてきた第三国企業は、これまで対立してきた陣営側のサプライチェーンや市場に迎えてもらえるであろうか。この点も踏まえるとますます「中立的なサプライチェーン」の道を歩まざるをえないのである。

中国の貿易構造変化

ここで中国の自動車部品、半導体、レア・アースについて、2015年と2020年の貿易結合度を算出して構造変化を考察してみよう。貿易結合度とは、中国から見てA国との貿易関係がどの程度緊密であるかをみるものである。世界貿易額に占めるA国のシェアを算出し、そのシェアを平均値(1.0)とした場合、中国とA国の貿易関係が平均値以上か以下かをみるものである。2.0を示せば、世界平均と比べ中国はA国と2倍緊密であることを示しており、0.5であれば世界平均の半分程度のお付き合いでしかないことを示す。

2020年の中国の自動車部品(HS8708)の輸出結合度が最も高い相手国・地域は香港で、世界平均の3.5倍の結合度であった。これは香港を活用した加工貿易の結果というよりも、スペアパーツやアフターパーツなどの自動車部品を香港の保税倉庫で保管し、必要な時に必要な地域に輸出するという商流の存在が大きいと考えられる。また、輸出ではフィリピン(2.8倍)、日本(2.3倍)、韓国(2.1倍)との結合度が高かった。

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