米中対立を「中立的サプライチェーン」で生き残る 「生産分散」「技術的中立性」「地産地消」の3条件

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それでも、ベトナムはアメリカとの2国間自由貿易協定(FTA)締結交渉に持ち込まれることもなく、貿易摩擦も回避し、為替操作国に一定期間認定された程度で済んだ。ベトナムは米中対立下の初期の貿易摩擦の荒波を上手く乗り切ったといえるであろう。

技術覇権争い

米中対立では貿易戦争に加え、技術覇権争いも顕在化した。アメリカは中国通信大手の華為技術(ファーウェイ)を狙い撃ちにし、アメリカ内の通信設備や企業取引制限など、中国のハイテク企業を締め出す動きを強めた。特に次世代通信規格である5Gの特許の多くを中国勢に握られ、将来の通信インフラ産業における中国の技術覇権を警戒するに至ったのである。

2020年12月には中国も輸出管理法を発布し、中国の主権と安全を保護するために特定品目を定め、これを取り扱う企業取引を規制することとなった。特定品目は明示されていないが、中国以外からの調達が難しい品目であると予想でき、レア・アースなどが候補になると噂されている。

米中間の技術覇権争いはサプライチェーンに大きな影響を与える。それは関税合戦が貿易転換効果を引き起こすよりもさらに大きな影響になる。なぜならば、技術の由来や資源の由来を問題視するということは、中間材料や素材加工にまで遡ってサプライチェーン全体の再編が必要となるからである。

関税合戦が最終生産地を転換することで回避できるのに対し、技術覇権争いは製品の最上流に位置する素材、中間財という、大型設備を抱え移転が難しい産業、資源立地型産業であるためそもそも移転が不可能な産業、目に見えにくい特許が係争の対象となることなど、広範な川中、川下産業への波及が避けられないのである。

今後、高性能蓄電池、情報通信技術(ICT)製品、半導体、医薬、レア・アースなどが技術覇権争いの対象となるリスクが高い。アメリカはバイデン政権発足後間もない2021年2月、これら品目のサプライチェーン再編の大統領令に署名した。バイデン政権発足後、米中間のデカップリング危機は緩和されるどころか高まっているのである。

米中が自国の技術を囲い込み、特定品目について、アメリカは中国由来の技術を使用せず、アメリカ企業の取引相手にもこの中国技術の不使用を迫るようになる。中国もサプライチェーンからアメリカ技術を締め出そうとするのでデカップリングが加速する。米中企業間だけでなく日本企業を含む世界の企業もマイナスの影響を受ける。例えば、通信設備で使用される機器には多くの特許が含まれるが、中にはファーウェイに代表される中国ハイテク企業が取得した特許が多数含まれている。

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