消えない産後の恨み。専業主婦の10年戦争 妻が発するSOSに、夫はいつ気づくのか?

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久々に電話をかけて夫と話をした。「1度、割れたお皿はボンドでくっつけても直せない」と麗子さんが言うと、夫は「じゃあ、違うものを作り直せばいい」と答えた。

夫への愛情は、結婚時の100に対し、今は20~30

もちろん、この程度では関係修復には至らない。夫からは「もう自殺します」とか、「方法も考えました」というメールが届き、「甘えるのもいいかげんにして」と麗子さんは思った。ただ、少しずつ、夫の立場も理解できるようになってきた。夫は田舎の名家の長男。東京の有名私大を出て有名企業に勤め、男の子と女の子を持つ父親になった。両親から見れば自慢の息子に違いない。

家出をやめたきっかけは「やっぱり子どもかな」と麗子さんは振り返る。久々に再会すると当時4歳だった娘がパパを見て大喜びし、「わたしはママだけのものじゃないのよ!」と言った。1歳だった息子も、心なしかにこにこしていた。「借金があるとか、殴られる、というほどではないから、今、ここで離れたら後悔するかもしれない」と考えた。

麗子さんが首都圏の自宅に戻ると、夫は以前のように「実家、実家」と言わなくなった。休日に夕食を作ろうとするなど、努力のあとも見られる。ただ「変わろうとするけれど、変わりきれてはいない」というのが麗子さんの厳しい見立てである。結婚前に「大好きだったとき」の夫への愛情を100とすると、家出したときが「0かマイナス」、そして「今は20か30くらい」。

夫婦関係は、今後、回復していくのだろうか。「あきらめも入っていると思います」と麗子さんは見る。今は仕事に復帰した麗子さんは、朝、駅前の保育園で見かける若いパパたちの姿を「心からうらやましく思いながら」眺めている。勤務先でも若い男性社員が仕事よりプライベートを優先するのを目の当たりにして、いい意味で驚くことがある。

10年間、専業主婦だった麗子さんを採用したのは、主婦の活用をミッションに掲げる起業家で、中小企業と高学歴主婦のマッチングがうまくいった形だ。仕事に出るのは楽しいし、今では自分の食べたお皿を子どもたちが自分で洗うから、育児も大変さより楽しさのほうが勝る。

そして、夫に少し同情もするようになった。「うちの子どもたちが生まれたのは、イクメンブームの前だから、夫が抱っこひもやバギーを使うこともなかった。いちばんかわいいときにかかわる機会を持てなかったから、子どもたちはあんまりなついていない。かわいそうな面もあるかもしれません」。

相手が変わることを期待するより、自分が変わったほうがいい……と考える余裕も生まれた。今のところ、子どもの教育費などを考えると、離婚はしない可能性が高い。

この記事を通勤電車の中、スマホで読みながら「やばい、これ、うちの話?」と思ったビジネスマンはいるだろうか。家で待っている妻が、あなたと同じくらい大変な仕事を、あなた以上に孤独な環境でこなしながら、誰からも認知されていないという事実に、ぜひとも気づいてあげてほしいのです。妻たちは誰より、あなたに気づいてほしいと思っているはずなのです。

治部 れんげ ジャーナリスト

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じぶ れんげ / Renge Jibu

東京工業大学リベラルアーツ研究教育院准教授。日経BP社、ミシガン大学フルブライト客員研究員などを経て2021年4月より現職。内閣府男女共同参画計画実行・監視専門調査会委員、日本ユネスコ国内委員会委員、日本メディア学会ジェンダー研究部会長、など。一橋大学法学部卒、同大学経営学修士課程修了。著書に『稼ぐ妻 育てる夫』(勁草書房)、『炎上しない企業情報発信』(日本経済新聞出版社)、『「男女格差後進国」の衝撃』(小学館)、『ジェンダーで見るヒットドラマ―韓国、日本、アメリカ、欧州』(光文社)、『きめつけないで! 「女らしさ」「男らしさ」』1~3巻(汐文社)等。

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