久々に電話をかけて夫と話をした。「1度、割れたお皿はボンドでくっつけても直せない」と麗子さんが言うと、夫は「じゃあ、違うものを作り直せばいい」と答えた。
夫への愛情は、結婚時の100に対し、今は20~30
もちろん、この程度では関係修復には至らない。夫からは「もう自殺します」とか、「方法も考えました」というメールが届き、「甘えるのもいいかげんにして」と麗子さんは思った。ただ、少しずつ、夫の立場も理解できるようになってきた。夫は田舎の名家の長男。東京の有名私大を出て有名企業に勤め、男の子と女の子を持つ父親になった。両親から見れば自慢の息子に違いない。
家出をやめたきっかけは「やっぱり子どもかな」と麗子さんは振り返る。久々に再会すると当時4歳だった娘がパパを見て大喜びし、「わたしはママだけのものじゃないのよ!」と言った。1歳だった息子も、心なしかにこにこしていた。「借金があるとか、殴られる、というほどではないから、今、ここで離れたら後悔するかもしれない」と考えた。
麗子さんが首都圏の自宅に戻ると、夫は以前のように「実家、実家」と言わなくなった。休日に夕食を作ろうとするなど、努力のあとも見られる。ただ「変わろうとするけれど、変わりきれてはいない」というのが麗子さんの厳しい見立てである。結婚前に「大好きだったとき」の夫への愛情を100とすると、家出したときが「0かマイナス」、そして「今は20か30くらい」。
夫婦関係は、今後、回復していくのだろうか。「あきらめも入っていると思います」と麗子さんは見る。今は仕事に復帰した麗子さんは、朝、駅前の保育園で見かける若いパパたちの姿を「心からうらやましく思いながら」眺めている。勤務先でも若い男性社員が仕事よりプライベートを優先するのを目の当たりにして、いい意味で驚くことがある。
10年間、専業主婦だった麗子さんを採用したのは、主婦の活用をミッションに掲げる起業家で、中小企業と高学歴主婦のマッチングがうまくいった形だ。仕事に出るのは楽しいし、今では自分の食べたお皿を子どもたちが自分で洗うから、育児も大変さより楽しさのほうが勝る。
そして、夫に少し同情もするようになった。「うちの子どもたちが生まれたのは、イクメンブームの前だから、夫が抱っこひもやバギーを使うこともなかった。いちばんかわいいときにかかわる機会を持てなかったから、子どもたちはあんまりなついていない。かわいそうな面もあるかもしれません」。
相手が変わることを期待するより、自分が変わったほうがいい……と考える余裕も生まれた。今のところ、子どもの教育費などを考えると、離婚はしない可能性が高い。
この記事を通勤電車の中、スマホで読みながら「やばい、これ、うちの話?」と思ったビジネスマンはいるだろうか。家で待っている妻が、あなたと同じくらい大変な仕事を、あなた以上に孤独な環境でこなしながら、誰からも認知されていないという事実に、ぜひとも気づいてあげてほしいのです。妻たちは誰より、あなたに気づいてほしいと思っているはずなのです。
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