肺がんは、重症化しないと自覚症状がない。長谷川さんは経験したことがない激しいせきが1週間以上続き、38度以上の高熱がそれに重なり、やがて首の付け根が見たこともないほど腫れ上がった。タバコをいっさい吸わない長谷川さんが発症したのは肺腺がんで、喫煙歴がない人でも発症する。
連載12回目の松本みゆきさんと同じがん。長谷川さんは振り返る。
「ステージ4の告知を受ける前後は、トイレで力むと失神したり、肺に血栓(血の塊)ができる(息切れや胸や背中の痛みにつながることもある)など、体調が急激に悪化していきました。ですから治療について説明を受けても、当時の私はもう『それでお願いします』と言うしかありませんでした」
医師から言われた言葉で気づいた可能性
セカンドオピニオンを求めた2人目の医師は、厳しい診断を伝えた後、ふいに長谷川さんに「子どもはいるの?」と聞いてきた。長谷川さんの妻は質問を聞いただけで泣きだしたが、彼は努めて冷静に「小学生と幼稚園の2人います」と答えた。
「長谷川さん、いいかい。人には役目がある。あなたは子どもを育てるという役目があります。がんは治らないだろう。しかし、ほんのわずかな可能性がないわけでもない。闘いなさい。闘え!」
心身ともに防戦一方だった長谷川さんは、その言葉に目からウロコが落ちた。
「病気への考え方という武器を、手渡してもらえた気がしました。それまでは『これで終わるんだ』と思っていましたが、あの言葉で『闘ってもいいんだ!』と。医師が言うように可能性は小さいけど、今後の治療次第では自分にも選択肢が生まれる。それに気づけたことはありがたかったです」(長谷川さん)
以降、彼が心がけたのは医師や看護師に積極的に質問したり、自分なりに病気について調べたりして正しく怖がること。そのうえで自分なりに闘うことだ。
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