そんな転換点から、音声付きマンガ動画にもつながっていった。長谷川さんの話をZoomや講演で聞いた高校生たちが6カ月間かけて今年1月に完成させた。高校生たちは動画制作を通して何を、どう学んだのか。
揺れ動く感情を表現する難しさとやりがい
「今まで『がん=死』というイメージでしたが、長谷川さんからお話を伺って、ガラッと変わりました。とてもはきはきと話される方で、いわゆる『ザ・病気の人』という感じではなかったんです」
関西文化芸術高校3年の美術専攻で、日本画を学ぶ田中莉多(りた・18)さんはZoom越しにそう話した。長谷川さんが「肺がんのステージ4」と診断されたのは2010年2月だから、彼女が驚くのも無理はない。作画を担当した田中さんは日本画が専門ゆえにマンガを描くのが当初難しく、戸惑いも大きかったという。
「長谷川さんもご家族もずっと病気を抱えていらして、心の底から笑っていない微妙な感じを出せるようにと、作品全体を通して意識しました」
たとえば、せきがひどくて今晩はそばにいてほしいと懇願する長谷川さんに、妻が「朝目が覚めたら、私はいませんよ」と伝える場面。翌朝には登校や登園する2人の子どもたちの世話があるためだ。
「あまりキラキラした目だと奥さんが生き生きした表情になるので、目の色を少し暗めに抑え、長谷川さんへのやさしい気持ちだけじゃなく、病気に対する悲しみも折り込みました」(田中さん)
それ以外にも想像だけでは描けない難しさや、実際にあったことを表現する際の責任。「もし間違ってたら?」という不安などもあったと振り返った。
声優志望で、同校のパフォーマンス専攻で学び、今春卒業した遠田はなさん(19)。遠田さんは3年生の冬に、長谷川さんの妻役の声を担当した。
「できあがったマンガを見ながら、個々の場面の奥さんの表情を確認していくと、一見苦しそうだけど、気持ちは前向きなんじゃないかと感じる場面も多かったんです。さまざまな感情に揺れ動く中でも、前向きなもののほうが強かったんじゃないか、と私なりに想像しました」(遠田さん)
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