財政出動しても景気がよくならない根本的な理由 近づく選挙、バラマキ政策の乗数効果は小さい

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これにより、給付金の支給を追加的にΔGだけ増やしたときの最初の経済効果は、給付金を受けた国民が限界消費性向の割合だけ消費に回して、cΔGだけGDPが増えるという効果となる。

その後は、前述したような所得の増加と消費の増加が繰り返される効果が出る。したがって、給付金増額の乗数効果の大きさは、前掲した数式の冒頭のΔGだけ効果がなくなることを踏まえて、c/(1ーc)(=1/(1ーc)ー1)となる。つまり、前掲の例でいえば、限界消費性向が0.8ならば、給付金の支給を1兆円追加すると、GDPが増えるのは4兆円となる。

実際の乗数効果はもっと低下する

加えて、乗数効果の前述の説明には現実離れしたところがある。前述の説明では、財政支出が一度出されると、その後所得の増加と消費の増加が際限なく繰り返されて、乗数効果が起こるとされる。しかし、現実には、1年間という短い期間で際限なく繰り返されるほど取引が頻繁に行われるわけではない。

特に、財政支出の影響で売り上げが急に増えたからといって、企業が増えたその月から直ちに給料を上げることはしない。一般的には、年2回ほどのボーナスか年1回の昇給などによってしか、従業員には分配されないだろう。それまでの間は、財政支出に端を発した資金が企業に渡っても、従業員には渡らない。

すると、財政支出の影響で売り上げが増えた企業が、ボーナスなどで従業員に分配するとしても、半年に1回程度という頻度となる。そして、これによって所得が増えた従業員が消費を増やしたとして、その消費の増加の恩恵を受けた企業もまた、その従業員にボーナスや昇給で分配するにしても、半年に1回程度という頻度でしか分配しない。

ボーナスや昇給という形で従業員へ分配される機会が年に2回という頻度だとすれば、前述の説明のような、所得の増加から消費の増加への循環が際限なく繰り返される効果は起きえない。

しかも、将来不安などで消費者が、所得が増えてもそれを直ちに消費には回さないとなると、限界消費性向は小さくなり、なおさら乗数効果は小さくなる。

以上を踏まえれば、限界消費性向が0.6であると、年の上半期に政府が給付金の支給を追加的に1兆円増やしたとして、受給した国民が消費を増やし、これに伴い売り上げが増えた企業が年の下半期の給料を上げて、所得が増えた国民が消費を増やしたら、このときの乗数効果は、0.6+(0.6)2=0.96となって、1を下回るのである。

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