つまり、仮に政府が給付金を1兆円増やしたところで、その6割を消費に回すとしても、従業員の給料が半年に1度しか増えなければ、乗数効果として所得から消費への循環が回らず、GDPは0.96兆円しか増えないことさえ起こりうるのだ。
給付金を追加的に支給しても、その金額を下回る額しかGDPが増えないことこそ、まさに矢野康治財務事務次官が月刊誌で、「10万円の定額給付金のような形でお金をばらまいても、日本経済全体としては死蔵されるだけだ」と記した現象を表している。
ケインズ経済学の教科書でいう乗数効果は、所得から消費への循環が際限なく繰り返されることを想定しているが、実際には1年間でそれほど頻繁に循環しない。そこに、乗数効果が大きくならない根本的な理由がある。
国債増発に依存するデメリット
ましてや、財政出動の財源を国債の増発で賄うことによって、その返済に伴う将来の負担増を国民に惹起させれば、消費者はその負担増に備えて逆に今の消費を減らすことさえある。経済学では、この効果を非ケインズ効果と呼ぶ。非ケインズ効果が生じると、国債増発による財政出動は、かえって現在の消費を抑えることになる。
確かに、低所得者などに限定して給付金を配ることで、GDPの増加よりも、所得格差を是正しようとする考え方もある。ただ、その給付金の財源を国債増発で賄えば、それは富める者から貧しい者への再分配ではなく、低所得者を含む将来世代から現在の低所得者への再分配となっていることには注意が必要だ。再分配をより鮮明に行うならば、今の低所得者への給付金の財源を今の高所得者への増税で賄うべきだろう。
財政出動による乗数効果は、捕らぬ狸の皮算用になってはいけない。財政出動によって景気がよくなることへの過度な期待はやめるべきだ。真に持続的な経済成長につながる政策を、財政支出を伴わないものも含めて実行することで、中長期的な所得の増加は実現することができる。
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