追加的に増えた所得のうち、追加的に消費に回す割合を、限界消費性向と呼ぶ。限界消費性向をcと表し、財政支出をΔGだけ増やしたときに、どれだけGDPが増えるかをみると、
ΔG+cΔG+c2ΔG+c3ΔG+…= (1/1-c)×ΔG
となる(cは0と1の間の値)。これは、高校数学での無限等比級数の和に基づいて導出されている。
上の式に当てはめてみると、たとえば、限界消費性向(c)が0.8であれば、財政支出を1兆円追加すると、GDPは5兆円増えることになる。つまり、1/(1-c)が、乗数効果の大きさを意味する。ただし、ここでは金利がまったく上昇しない場合を想定している。
現実は、教科書どおりではない
ケインズ経済学の教科書では、乗数効果を以上のように教えている。
ところが、現実にはそうはならない。
まず、前述の財政支出は、GDPを直接増やす効果のあるものでなければならない。具体的にいえば、公共投資や政府が行政サービスを提供する際に必要な物品の購入(専門用語では政府最終消費支出)である。
給付金の支給は、GDPそのものを直接増やすものではない。給付金そのものは、お金が政府を介して右から左へと流れるだけのものであって、付加価値(生産)を生み出すものではないからだ。
だから、給付金を支給するならば、前掲した数式の冒頭のΔG(財政支出が直接GDPを増やす効果を意味する)は、その効果がなくなることになる。そして、給付金を受けた国民は、その全額を直ちに消費に回すのではなく、限界消費性向の割合だけ消費に回そうとする。
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