アパレル名門「ワールド」の構造改革は成功するか コロナ直撃企業のための財務的な危機回復方法

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その結果、2020年3月期に比較して2021年3月期は、2021年2月3日の構造改革プランの施策が実行中であるにもかかわらず、売上原価で約15.1%、販売管理費で約17.2%の削減が実現し、有形固定資産とリース資産に関係する使用権資産の合計も約16.8%減少している。

財務から考える危機からの復活の3つのステップ

さらに、ワールドは構造改革の一環として、財務の強化のために資金調達も行っている。具体的には、ワールドが採用している会計基準であるIFRSにおいて資本として扱われる劣後ローン150億円を2021年3月末に発行し、当期純利益の赤字によって減少した純資産を増加させ、純資産比率(資本比率)の向上を図っている。これも、危機に直面した場合の財務の強化策としては正攻法の1つといえる。

実際に、純資産比率を見ると、赤字や借入金の増加によって2020年9月末時点で28.6%まで低下していたものが、2021年3月末時点で32.6%まで向上し、ワールドが目標としている30%をクリアするレベルまで回復している。

また、デッド・エクイティ・レシオ(借入金や社債などで借りている資金と、株主から預かった資金である資本の比率)をみても、2020年9月末時点で1.18倍まで増加していたものが、2021年3月末時点では0.99倍と、目標とする1倍以下をクリアできている。このようなワールドの具体的な施策からわかるように、財務から考える危機からの復活のステップは次の3つになる。

ステップ1 借入金などを使った手元資金の確保
ステップ2 ・事業の絞り込み、資産の圧縮、コスト削減による、規模縮小も含めた

       黒字体質への転換と資金の確保      
       ・必要に応じた増資などによる資本の増強
ステップ3 成長戦略の実行

急激な環境変化で業績が悪化した場合には、ステップ1からステップ2までの方策が財務的には正攻法といえる。

その後、黒字化し、財務の安定化が図られた段階で、成長戦略を打ち出していくことが重要になる。実際、過去に危機に陥った1990年代後半の日産自動車、2010年頃の日本航空も、同じようなステップで再生のための施策を実行することによって復活している。ワールドも、構造改革の成果を着実に生み出し、その後成長モードに入っていくことを期待したい。

西山 茂 早稲田大学ビジネススクール教授

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にしやま しげる / Shigeru Nishiyama

早稲田大学政治経済学部卒業。ペンシルバニア大学ウォートンスクールMBA修了。監査法人ト-マツ、西山アソシエイツにて会計監査・企業買収支援・株式公開支援・企業研修などの業務を担当したのち、2002年より早稲田大学、06年より現職。学術博士(早稲田大学)。公認会計士。主な著書に『専門家以外の人のための決算書&ファイナンス入門』(以上、東洋経済新報社)、『ビジネススクールで教えている会計思考77の常識』(日経BP社)、『MBAのアカウンティングがざっと10時間で学べる』(KAOKAWA)などがある。

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