アパレル名門「ワールド」の構造改革は成功するか コロナ直撃企業のための財務的な危機回復方法
その意味では、コストライト、固定費ライト、また費用につながる傾向が強い資産を圧縮するアセットライトの方向性が望ましい。言葉を変えると、持たない経営、抱えない経営が、利益を安定的に生み出すという意味でのリスクヘッジにつながっていく。ただ、絶えず持たない経営がいいのかというとそうとも言い切れない。
例えば、家具やインテリア用品の製造販売事業を展開しているニトリは、ベトナムなど海外に自社工場を持ち、国内中心に数多くの店舗(2021年2月末時点、国内573店舗、海外71店舗合計644店舗)を保有し、物流センターの多くを自前で保有し、正社員1万8400人、アルバイト1万8269人と一定の正社員、また従業員数を抱える「持つ経営」、「抱える経営」を行っている。
そのうえで、コロナ禍の影響が大きかった2021年2月期に、前年比11.6%の売り上げ増加、前年比28.1%の営業利益増加を達成している。また、このような資産を持ち一定の従業員も抱え、一定の固定費がある経営は、売り上げが減少すると大きく業績が悪化するリスクはあるものの、逆に売り上げが増加した場合には業績が大きく改善するという面もある。
さらに社内の資産や従業員をベースに業務を行うことで、製品の品質確保やコストコントロールを直接グループ内で行うことができ、それをベースにした優位性を確保しやすくなるといったメリットが期待できる可能性もある。
このように考えると、一般に環境変化が激しくなる中では、社内で保有する資産や抱えるヒト、さらには社内で行う業務などは抑え気味にし、固定費を圧縮していく方向性が望ましいと考えられるものの、その水準については、各企業が取り巻く経済環境や所属する業種、また各社の競争優位のベースなどをよく考えて、ベストミックスを探ることが重要ではないだろうか。
環境変化に対応するためには「強い財務体質」
これまで見てきたように、アダストリアとワールドの2社は、新型コロナウイルスの感染拡大の中で売上高と利益を中心に大きな業績悪化に直面した。ただ、その中でアダストリアは大きな構造改革などはしていないものの、ワールドはブランド数の削減、店舗の削減、従業員数の削減といった大きな構造改革を行っている。
この対応の違いには、ROEのところで触れた元々の財務レバレッジの違い、つまり、無借金のアダストリア(2020年2月期の財務レバレッジ:172%)と純資産と同じ程度の借入金があるワールド(2021年3月期の財務レバレッジ:321%)という財務的な安全性の違いが影響していると考えられる。
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