「プロデュースって違和感がある言葉だな。実際はコラボなんだけどね」と彼は言う。「これまで何度もプロデューサーが背後からミュージシャンをチェックしているのを見てきたよ。文字通り手の動きをよく見ているんだ。しばらくするとミュージシャンの腕が動かなくなる。観察されていると萎縮するからね。それじゃあ、せっかくの潜在能力の芽を摘んでしまうよ」(171ページより)
「何より大事なのは信頼なんだ。アーティストがプロデューサーを信頼しなければ、プロデューサーは当惑して力を発揮できないし、アーティストの後押しがもうできなくなる。プロデューサーがアーティストを信頼しなければ、アーティストは萎縮してしまう。だから信頼がないとコラボする意味がない」(171ページより)
これもまた、ビジネスの世界にぴったりと当てはまる話ではないだろうか。
さまざまなアーティストが登場
さて、順序が逆になってしまったが、ここで改めて著者をご紹介しよう。本書は、パノス・A・パノイとR・マイケル・ヘンドリックスの共著である。
僕たちの2人のうち、パノスはバークリー音楽大学のグローバル戦略イノベーション担当上級副学長であり、もう1人のマイケルはIDEO(アイディオ)のグローバル・デザイン・ディレクターだ。(「PRELUDE」より)
さらにはミュージシャンでもある2人は、音楽やビジネスに対する純粋な好奇心を抱きつつ、本書においてさまざまなアーティストやプロデューサーに話を聞いている。
前出のファレルやハンク・ショックリー、T・ボーン・バーネットのみならず、ドクター・ドレーとともにヘッドホン「ビーツ・バイ・ドクター・ドレー」を生み出したプロデューサーのジミー・アイオヴィン、アイスランドで最も有名なアーティストとして知られるビョーク、ヘヴィ・メタル・キッズの憧れでもあるギタリストのスティーヴ・ヴァイなどなど、その人選は驚くほど広範囲にわたる。
だから音楽ファンは、読んでいるだけで純粋に興奮できるのではないかと思う。しかもそれだけではなく、音楽とビジネスとをひも付けた本書には、これからの働き方やそこに伴う考え方に関するヒントが数多く隠れている。したがって、なにかを学びとろうと意識するまでもなく、ページをめくるごとに自然と多くのことを吸収できるのである。
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いんなみ あつし / Atsushi Innami
1962年生まれ。東京都出身。広告代理店勤務時代にライターとして活動開始。「ライフハッカー[日本版]」「ニューズウィーク日本版」「WEBRONZA」「WANI BOOKOUT」などで連載を持つほか、「ダ・ヴィンチ」など紙媒体にも寄稿。『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』(日本実業出版社)、『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)など著作多数。
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