虎視眈々と、離婚のときを待っている妻がいる…?
一時期、熟年離婚という言葉が話題になったことがあった。2005年にはテレビ朝日で同名のドラマも放送されたから、覚えている人も多いと思う。
話題になった理由は、夫の厚生年金の報酬比例部分を合意なしに夫から妻に分割できるという年金分割制度が2007年から実施されるのを、虎視眈々と待っている妻がいるのではないかと、世間のオジサマたちが戦々恐々したことにあった。自分の妻もそうなんじゃないか、リアリティがあったわけだ。
ところが、熟年離婚ブームは実際には起こらなかった。その話題性から、年金分割に対する関心は一応高まったけれど、それでも離婚の実数が伸びなかったのは、結局のところ離婚がそんなに簡単じゃないからだろう。そもそも夫が協力的であれば、協議の時点で年金分割だってできていたハズなのだから、年金の制度変更を狙っている時点で円満な離婚など望めない。
だが、熟年離婚が増えていないのかと言えばそんなことはない。実は、熟年離婚の急増は1980年代初頭から90年代半ばにかけて起こっていた。この間、20年以上同居している夫婦の離婚(これが熟年離婚の正確な定義だ)の数は2倍以上に増加して、それ以降はむしろ小康状態にあるというのが実情なのだ。熟年離婚という用語自体も、そもそもはこの急増の時期から使われ始めていたわけで、熟年離婚状況はずいぶん前から定着していたと言える。
じゃあ、ゼロ年代において熟年離婚がなぜ関心を呼んだかと言えば、それが結婚観の見直しを迫るものだったからじゃないだろうか。たとえば、山田昌弘・白河桃子『「婚活」時代』を原作とした2009年のNHKドラマ「コンカツ・リカツ」にもそれを見て取ることができる。
アラフォー(当時はまだ新しい用語だった)のドタバタ恋愛ドラマで、しかも婚活に必死な人たちは結婚できないという逆説的で意味深な結末が用意されているのだけれど、それはともかく、重要なのは婚活と離活が抱き合わせになっていたことだ。
桜井幸子演じる町田七海が婚活に励むそのそばで、清水美沙演じる工藤梨香子が離活と向き合う。梨香子は熟年離婚で想定されていたのとは違って、むしろ浮気中の夫に離婚を迫られる存在として描かれているけれど、何はともあれ、ドラマ全体を貫く婚活全力応援の空気に、やたらとリアルな離活のシーンが水を差す。表層的な恋愛結婚賛歌の中で、あれ、結婚ってそんなに簡単だったっけ、幸せなことだったっけ、とフト思わずにはいられなくなる。
熟年離婚ブームは、このドラマにおける離活と同じような効果を、現実社会に対して持ったのではなかったか。長年連れ添ったからといって夫婦がそのままであるとはかぎらない。