小学校にこそ学んでほしい幼児教育の優れた実践 5歳児からの一律教育構想と並行での議論を

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おおた:それでいうと、幼児教育スタートプランについて「ことばの力、情報を活用する力、探究心を5歳児から」って書かれていますけど、「それらを伸ばす教育って、幼児教育におろす前に、そもそも小学校では実現できているんでしたっけ?」という疑問も私の中にはあって。

汐見:そうそう。むしろそこを小学校が一生懸命やってくださいって。その意味では幼児教育のほうがうまくやっている事例も多い。小学校もそこからもっと貪欲に学んでほしいです。

おおた:こういう議論が起きている中で、当事者である幼児の親御さんたちはいまどんなことに気をつければいいんでしょうか。

大人たちの過度な心配が子供たちの育ちを阻害

汐見:いまの親御さんは非常に心配事が多いと思います。いじめられないかなとかね。子ども自身も、やっぱり対人関係で悩んでしまうケースが多い。昔だったら悩む必要がないようなことで、親も子も悩む。放課後に学校が禁止していることを友達同士で内緒にやるみたいな小さな悪を共有することでざっくばらんな関係ができたりするんですが、そういうことに対する社会のおおらかさがなくなっていて、なんかもうね。それが子どもの豊かな原風景を奪っているってことに気づかなきゃいけないと思ってるんですよ。

おおた:大人たちの過度な心配が学校を窮屈にし、それが子どもたちの育ちを阻害しているという指摘ですね。

汐見:しかも、偏差値教育ではダメだということはみんな漠然とわかっている。だからこれからはやっぱり何か、自分の一芸のようなものをもって世に出ていかなきゃいけないってことになる。じゃあどうしたらいいのかというところでまた悩む。子どもを育てるうえで、楽しみよりも悩みが多くなっている。だから、親同士が率直に語り合える場が必要だと思っています。

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おおた:いまの世の中では、親が1人で子育ての責任を抱え込んじゃう傾向がありますからね。

汐見:私の近著『教えから学びへ』で「学び」へ重点を移せと言ったのと同じで、「教え」はどうしてもミーニングになってしまうんだけれど、「学び」はセンスが中心になるんですね。だからもう1つは、家庭でも、毎日の夕食のときに、お父さんもちゃんと帰ってきて、その日あったそれぞれの楽しかったことを語り合うようにしてほしい。それができる社会にしていかなきゃなりません。

どんなことがあって、それがなぜうれしかったのか、自分にとってのセンスを語り合う。テレワークが増えてくる時代ですからね。そういう家族の文化を意識してつくり直してほしい。「アンタ、今日学校でどうだったの?」という尋問ではなくて(笑)。

おおたとしまさ 教育ジャーナリスト

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Toshimasa Ota

「子どもが“パパ〜!”っていつでも抱きついてくれる期間なんてほんの数年。今、子どもと一緒にいられなかったら一生後悔する」と株式会社リクルートを脱サラ。育児・教育をテーマに執筆・講演活動を行う。著書は『名門校とは何か?』『ルポ 塾歴社会』など80冊以上。著書一覧はこちら

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