潜水艦計画で過熱する「アジアの軍拡競争」の実態 「AUKUS」が太平洋に広げる危険な波紋
中国が軍事大国へと変貌を遂げる中、インド、ベトナム、シンガポールは防衛予算を拡大し、日本もそうした傾向を強めている。そしてこのほど、アメリカとイギリスの後ろ盾を得たオーストラリアがアジアで中国との軍事競争を加速させたことで、同地域の緊張は新たな局面に突入することになった。
オーストラリアは先日、中国海軍への対抗力を高めるべく、ステルス性能が高く航続距離の長い原子力潜水艦をアメリカとイギリスから導入する契約を交わした。潜水艦の実際の導入はかなり先になる予定だが、アジアの軍拡競争は、それを待たずして過熱するおそれがある。
今回の件を受けて、中国は軍備の近代化を加速させるとみられる。特に、この潜水艦に対抗する技術には力を入れてくるだろう。さらに今回の契約は、アジアにおいてアメリカのバイデン政権が本気で中国の軍事力と対決する決意であることを裏付けるものであり、インドやベトナムなど多額の軍事支出を行っているアジア諸国が独自に軍備拡張を急ぐきっかけとなるかもしれない。
アメリカの対中包囲網に広がる不安
インドネシアやマレーシアのように中立を保とうとしている国々も、周辺地域が不安定化する中、アメリカと中国のどちら側につくのかという板挟みのプレッシャーが強まっている。
「懸念されるのは、悪いタイミングで軍拡競争に火がつく展開だ。この地域には今も、そして将来的にも軍拡競争は必要ない」と元駐米インドネシア大使のディノ・パティ・ジャラル氏は語る。
新たな潜水艦の配備には、少なくともあと10年はかかる。配備計画を受けて地政学的な波紋は急速に広がっているが、中国には周辺国を抱き込んだり、軍事的な対抗措置を計画したりする十分な時間がある。