「成功を収めればハッピーになれると思うでしょう。しかし、研究によるとその逆もあるのです。つまり、ハッピーな人はハッピーでない人に比べて、人生のいろいろな局面で成功を収めやすいということです」
こんな言葉が、ザッポスCEOのトニー・シェイのウェブサイトに書かれている。ザッポスは、靴やかばん、服を売るオンラインストア。見事な品ぞろえと価格の安さ、そしてカスタマーサービスの質が高いことが人気で、創業10年後の2009年には売上高は12億ドルに。8億0700万ドルもの額でアマゾンに買収されている。
シェイほど、「ハッピネス(幸福)」についてさまざまな発言をしている企業トップも珍しい。彼のような成功を収めれば、もう十分にハッピーだろうと想像するのだが、まるでハッピネスおたくかと思うほど、シェイはどこでもハッピネスのあり方、ハッピネスの起源、ハッピネスの本質について語り続けている。なぜか。
その理由は、シェイ自身がハッピーでないことを思い知った経験を持つからだ。
自分の会社なのに、出社拒否になりそうに…
シェイは、若い頃から起業精神に富み、かつてリンクエクスチェンジという広告ネットワークの会社を共同創業したことがある。社員が5人とか10人とかいう頃は、会社も仕事も楽しくて仕方がなかったそうだ。1日中仕事をして、いったい今日が何曜日かも忘れ、机の下で眠ったりもした。会社の成長は目覚ましく、友達を雇ったり、友達のそのまた友達を雇ったりして人を増やしていった。
ところが、面白くなくなってきたのは、そうやって雇える友達が足りなくなってからである。外部からいろいろな職に就ける人材を探してきて、面接をしたりして社員を増やしていった。適材適所を心掛けて、この若い企業にもぴったりだと思う人々を加えていった。けれども社員が100人を超える頃から、シェイは出勤するのがつらくなったのだという。
「毎朝、ベッドから起き上がれない。行き先が自分で作った会社にもかかわらず、です」と、シェイはあるインタビューで語っている。そして、トップである自分がこんな気持ちならば、ほかの社員の心情はいったいどんなものなのだろうと慮った。
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