だが、はしゃぐトニーをよそ目に、どこか盛り上がりに欠ける家族たち。トニーが気持ちを盛り上げようとすればするほど、家族間の不協和音が際立っていく空回り感が、何とも痛々しい。熱心なカトリックで保守的なトニーにとっては、最も大切なのは家族だというのに。
外でも家でも、トニーは「一体、誰のおかげで今の暮らしができていると思っているんだ?」と大声で叫びたい気持ちを、ぐっとこらえて飲みこみ、自宅のプールに住みついたカモの親子に異常な愛情を注ぐようになる(このくだりは本当に切ない)。
妻の不満がわからない
もっとも、カーメラの側からすると、また別の視点で物語を見ることができる。豪華なプレゼントにぜいたくな暮らしがうれしくないわけではないが、結局、モノはモノでしかない。カーメラが本当に欲しいのは、そうしたものではないのだが、トニーには妻の不満や気持ちがわからない。何か満たされない思いに、自己実現を試みて四苦八苦するカーメラもまた、ミッドライフクライシスに直面しているのである。
やがて、あることをきっかけにトニーはかたくなに拒んでいた精神科医に助けを求めることを決意する。才色兼備の精神科医メルフィ(ロレイン・ブラッコ)の元へ秘密裏に通いながら、トニーは自分の内面と向き合うことになる。
筆者が女性だからかもしれないが、いわゆる中年の危機は、更年期障害や子育てを卒業した後の喪失感といった形も含めて、女性のほうが映画やドラマでも題材として描かれることが多く、広く認知もされてきたように思う。
アメリカのドラマでは、2000年代に入るとミッドライフクライシスに直面して悪戦苦闘する、等身大の男性キャラクターが格段に増えた。傲慢な天才医師ハウスが、部下を持つことによって、これまでにない壁にぶつかる『Dr.HOUSE』。落ち目の有名プロデューサーが寒い言動で周囲をドン引きさせる、疑似ドキュメンタリ—風の『ラリーのミッドライフ★クライシス』(2000年~)。患者の自殺を機に情緒不安定になる精神科医を描いた『HUFF~ドクターは中年症候群』(2004~2006年)。また、『ブレイキング・バッド』の主人公ウォルターは、皮肉なことに肺がんになり、ドラッグを密造するという非日常に飛びこむことによって、ミッドライフクライシスから脱することができたという見方もある。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら