「1日40万売る」フライドポテトベンチャーの正体 小学校教員→海外で飲食店勤務→北海道で起業

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キッチンカーで一緒に働く妻のみさきさん(筆者撮影)

再び追い風が吹き始めた昨夏、出店先のイベントでみさきと出会い、意気投合して今年3月に結婚。4月には自社工場も構え、それまで「湯地の丘 自然農園」に委託していたポテトの製造を、自分たちで担うようになった。北海道と名古屋のキッチンカーは安定的に収益を生み出すようになっており、起業から2年、ジェットコースターのように駆け抜けた齋藤も、ようやく次の一歩を踏み出す余裕ができたのだろう。

今年8月25日から9月5日まで東京・立川の伊勢丹で開催された「大北海道展」に出展し、初めて東京に上陸した。初日に訪ねると、齋藤とみさきに加えて、もうひとりの女性が働いていた。

その女性は、昨年4月、コロナで追い詰められた齋藤が「できることはなんでもやってやろう」と始めたユーチューブチャンネルを熱心に観ていた東京の主婦で、齋藤に感化されて、「自分もフランチャイズをやりたい!」と立候補。大北海道展はその研修を兼ねてのお手伝いで、10月には東京にアソンブロッソのキッチンカーが走り始めるそうだ。

北海道から世界へ

大北海道展は、緊急事態宣言中でそもそも来場者が少なかったうえ、ほぼ無名の状態で参加したため、当初苦戦した。しかし、日が経つにつれてリピーターが増えてきて、なかには4回も買いに来た人がいたという。実はこの傾向は北海道でも変わらず、なにかのきっかけで一度食べるとファンになって通い始めるようだ。札幌で話を聞いたお客さんは、こう話していた。

「最初に食べたとき、今まで食べたことない味だってびっくりして、それから何度も食べています。香りも素材もこだわっているし、また違う味も食べたいって思うんですよね。私の友達はキッチンカーの出店予定を確認して、追っかけしてると言ってました(笑)」

名古屋に続いて東京でもキッチンカーが走り始めれば、フランチャイズの申し込みが一気に増える可能性があるが、齋藤はキッチンカーの全国展開だけで満足するつもりはない。すでにフライドポテトの卸、冷凍フライドポテトの通販も手掛けており、来年には旭川での反省を生かして札幌に店舗を構えたいと意気込む。そして、狙うは世界進出だ。

世界進出を見据えるアソンブロッソの齋藤誠輔さん(筆者撮影)

「今年の冬、縁あって冷凍のポテトをシンガポールに輸出したんですが、いい反響があったそうで商社と今後の話を詰めているところです。僕はいつも、カルビーを超えるって冗談で言ってるんですけど、アメリカをはじめ、海外にアソンブロッソの店を開くのが目標ですね」

キッチンカーの追っかけがいて、80歳の高齢者でも食べたくなるフライドポテト。その味が東京で、アメリカで知られたとき、どんなことが起きるのか。齋藤は胸をホクホクさせながら、今日もジャガイモをハンドカットしている。

川内 イオ フリーライター

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かわうち いお / Io Kawauchi

1979年生まれ、千葉県出身。広告代理店勤務を経て2003年よりフリーライターとして活動開始。2006年夏、バルセロナに移住し、スペインサッカーを中心に各種媒体に寄稿。2010年夏に帰国後は、編集者としてデジタルサッカー誌編集部、ビジネス誌編集部で勤務。2013年6月より、フリーランスのエディター&ライター&イベントコーディネーターとして活動中。スポーツ、旅、ビジネスの分野で輝く才能やアイデアを追って各地を巡る。

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