コロナで苦境の温泉地「源泉も疲弊」の深刻な問題 湧出量はピーク時の9割程度に減少、泉温低下も

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そもそも温泉を掘削する際には、温泉法に基づく都道府県知事の許可が必要となる。環境省は『温泉資源の保護に関するガイドライン』を策定し、都道府県は許可を判断する際の参考としている。一方、独自の条例などを定め新規掘削を規制している自治体もある。

有限な温泉資源を保護すべく、いち早く取り組んできたのは、やはり大分県だ。なんと明治38年(1905)の段階で別府地区で現況調査が行われたという。大正13年(1924)には京都大学地球物理学研究所(現・地球熱学研究施設)が開設され、別府南部地域の温泉の一斉調査が行われた。

高度経済成長期の昭和30年代(1950~1960年代)に別府温泉を中心に温泉開発が急速に進み、別府では海岸部の自噴泉の減少や温泉水位低下、市街地での温泉水位低下や低温化が進み、動力による揚湯を行う温泉が急増という事態になった。

そこで大分県が温泉資源保護に向け、温泉掘削等に関するルールの整備を進めた。その内容は主に、①地域規制、②距離規制、③口径・深度規制、④動力規制の4項目。

地域規制でもっとも厳しいのは、新規掘削を認めない特別保護地域の設定だ。距離規制は温泉の新規掘削等における源泉間の距離の確保。口径規制は埋設管の口径の規格を定めている。動力規制は、動力を設置した場合の揚湯量を毎分50L以内にするなどの規制だ。

しかし、このようにいち早く対策に乗り出してきた大分県でさえ、別府市内の源泉に泉温低下などの現象がみられるという。

2016年に県内の約100カ所の温泉を調査した結果、約30年前の調査結果と比べ、多くの源泉で泉温低下などの現象が確認された。そこで県と市が共同で3年がかりで本格的な現況調査(事業費1億5000万円)を実施、今後は調査結果を基に保護に向けた対策を検討するという。

北海道の取り組みも注目されている。急速なリゾート開発で源泉の水位低下が確認されたニセコエリアの倶知安町ひらふ地域に対し、北海道は同地域を温泉の保護地域及び準保護地域に指定した(2021年9月15日施行)。保護地域では原則、新規掘削は認められなくなる。

「自治体任せ」に終わりを

当然ながら、温泉を取り巻く環境はさまざまだ。地質の構造や周辺の温泉の開発状況など、温泉資源の保護のために必要な対策の内容は地域ごとに異なるため、国が一律の基準をもって規制することは難しい。そのため、温泉に関するルール作りや運用はこれまで自治体主導で行われてきた。

しかし、今後は国としてより積極的に対処する必要があるのではないだろうか。全国の温泉資源の現況調査と資源保護の取り組みを、自治体任せではなく環境省を中心とした国が行っていくべきではないだろうか。

ただでさえコロナや自然災害などで疲弊している温泉地の「自助努力」に任せ、温泉資源がさらに深刻な危機に瀕してしまってからでは遅すぎる。日本の貴重な温泉資源を次世代に継承していくために、今、国を挙げた保護の重要性は確実に高まっている。

山田 稔 ジャーナリスト

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やまだ みのる / Minoru Yamada

1960年生まれ。長野県出身。立命館大学卒業。日刊ゲンダイ編集部長、広告局次長を経て独立。編集工房レーヴ代表。経済、社会、地方関連記事を執筆。雑誌『ベストカー』に「数字の向こう側」を連載中。『酒と温泉を楽しむ!「B級」山歩き』『分煙社会のススメ。』(日本図書館協会選定図書)『驚きの日本一が「ふるさと」にあった』などの著作がある。編集工房レーヴのブログも執筆。最新刊は『60歳からの山と温泉』(世界書院)。

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