「倒れるまで無理をする人」が仕事を断れない理由 ストレスフルな現代に必要な「モンク思考」

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『モンク思考』は、前半は智恵や気づき、つまり、アウェアネスの話が書かれており、後半は慈悲、コンパッションの話をしています。

とくに終盤は「奉仕」について書かれていますが、とくにこの部分は一度読んだだけでは深く理解することが難しいところなのではないかと思います。

なぜならば、この部分に書かれていることは、その人自身がマインドフルになり、自分を愛する自慈心を育むことができて、はじめて自分事として認識できるようになる性質のものだからです。

「奉仕が大事だ」と言ってしまうと、「利他を重んじよ」というような道徳として捉えられがちですが、実は、利他が大事なのではなく、自然に利他をするようになる、というのがマインドフルネスの真実なのです。

周りの人に「お返し」がしたくなる

「自利利他円満」という大乗仏教の言葉がありますが、自利と利他は実は同じことを言っているようなものです。

ここは、私自身、つねに伝え方が難しいと感じているところですが、ある程度、坐禅やマインドフルネスをやっていくと、そこの合一性が、自分の生き方に反映されてくるのです。

ジェイ・シェティさんは、このことを最後の数十ページに書いています。きっとそれが、いちばん伝えたかったことであり、そして、いちばん書き方に悩んだところでもあるだろうとお察しします。

ある程度、自分の存在を自己受容できるようになると、自分が得た安心感や穏やかな心を、自然に周りの人にお返ししたくなってくるんですね。

私も若い頃は、精神科医として、多忙を極める診療の日々に疲れ切っていて、いかにしてこれ以上自分の心を消耗しないようにするか、いかに残業せずに早く帰宅するかということばかりを考えていました。

けれど、僧侶としての修行を通して変化したことで、ちょっとでも多く、患者さんにお返ししたいという気持ちが生まれてきたのです。実はそれからのほうが、診療が早く進むようになったというのが不思議なところです。

次ページ「断る罪悪感」が自己犠牲に向かわせる
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