「倒れるまで無理をする人」が仕事を断れない理由 ストレスフルな現代に必要な「モンク思考」

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日本では仏教修行を極めた指導的立場の僧侶や、古典に基づいて仏教をひもとき、研究してきたという学者さん方が、一般のレベルまで降りてきて説明するということが多いと思います。

すると、ちょっとしたところで、難しい専門用語が無意識に使われたり、長く禅修行を経験してきた人でなければわからないような言葉が出てきたりしがちです。

けれども、ジェイさんは、誰にでもわかる日常に照らし合わせた言葉で、それを語っておられます。

彼は、もともと、まったく普通のお兄さんなんですよね。以前はパーティーに参加してうんぬんという話も書かれていますが、その普通の感覚を失わない状態でお坊さんになってみて、ゼロから体験を通して学び、そして深いところまで突き詰めていった。

つまり、そこにはまず実践してみるという姿勢があって、言葉での解釈は後から加えられてゆき、両者が和合したことで、ブッダの智恵心に落とし込むことができた方だと思います。そのために、非常に自然で、オープンな心でお書きになっていることが伝わってきます。

だからこそ、神々しく尊い宗教者ではない、私たちと変わらない普通の人たちが、誰でも手に入れられるものなんだなということがわかるのです。

今、人々に求められる「モンク思考」

あまりにかみ砕いていて、ここまで意訳してしまうと、仏教の専門家から反発を受けることもあるでしょう。

私自身、マインドフルネスという外来語を使って取り組んできた中で、とくに初期の頃は「そんなに簡単に座禅のことを言うな」というお叱りや皮肉の言葉をいただいたことも少なくありません。

しかし、ブッダの智恵をみんなに知ってもらい、誰もが分かち合う世界を実現するために、これは絶対に必要なことなんだと考えて、メディアなどいろいろな場でくり返し発信していくうちに、だんだんと私の本当の思いを認識していただけるようにもなりました。

ジェイさんは、そういったこともわかっていながら、それでも多くの人に知ってもらいたいという心根を感じる方です。

何より、誰でもわかる言葉で伝えるというのは、ブッダが2500年前に行った「対機説法」そのものだと思います。

機会を待って説法をするという意味ですが、形式ばった法話をするのではなく、その相手の状況に即した言葉で、その人が受け取ることのできる形で智恵を伝えるというのがブッダのやり方だったのです。

そして、それが今いちばん求められていることでしょう。『モンク思考』は、誰にとっても「自分事」として読むことのできる1冊ではないでしょうか。

(構成:泉美木蘭)

川野 泰周 臨済宗建長寺派林香寺住職/精神科・心療内科医

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かわの たいしゅう / Taishu Kawano

精神科医・心療内科医/臨済宗建長寺派林香寺住職。精神保健指定医・日本精神神経学会認定精神科専門医・日本医師会認定産業医。一般社団法人日本モメンタム協会理事。
1980年横浜市生まれ。2005年慶應義塾大学医学部医学科卒業。臨床研修修了後、慶應義塾大学病院精神神経科、国立病院機構久里浜医療センターなどで精神科医として診療に従事。2014年末より横浜にある臨済宗建長寺派林香寺住職となる。
現在、寺務の傍ら都内及び横浜市内のクリニック等で精神科診療にあたっている。
 

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