「疲れが取れない人」が知らない脳疲労の正体 精神科医の僧侶が教える「心を整える」技術

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修行前の精神科医時代には、患者さんの心の状態を、薬(向精神薬)で人為的に調整するという治療が主流でした。薬物療法は現在でも日本の精神医療のスタンダードですし、それによって救われる患者さんも大勢いらっしゃいます。

ただ私の中では、薬だけでは根本的な解決にならないのではないかという思いを拭い去ることができず、それ以外の何も患者さんに提供できない自分自身に嫌気がさしていたのも事実です。

ところが、修行後の診療では、禅やマインドフルネスに基づいたアドバイスをおこなうことで、患者さん自らが、自分自身の心のあり方、物事の向き合い方を変えてゆくお手伝いができるようになりました。

学生の頃、私が描いていた医師としての理想像は、人の心を明るく、すこやかにする精神科医でした。もしかしたらこんな自分にもそれができるんじゃないかと。修行が終わった今だからこそ、精神科医として診療を続けようと思うようになったのです。

それから7年になりますが、医療と仏教の教えの乖離に悩んだことは一度もありません。

脳科学によるエビデンス

ダライ・ラマ法王14世も、「仏教は科学である」とおっしゃっています。これからの仏教は、科学と対話することによって、平和に貢献するのだと。仏教と科学は非常に相性がよく、むしろ両者は同一のものであると私は思っています。

修行を通して、私自身が心の変容を体験しているだけでなく、実際に脳科学のエビデンスが出てきましたから、患者さんにも伝えやすいのです。

たとえば、背外側前頭前野という部分が活性化されると、アスリートが言う「フロー状態」「ゾーンに入る」という状態を誘導できる可能性が示されています。瞑想している人の脳の血流の状態を、MRIで解析したことで判明したわけです(ただし瞑想とフロー状態が同一のものかについては議論があり、まだはっきりとはわかっていません)。

ブッダは、瞑想が人の心の苦しみや迷いを払う効果があると実感して、人々に伝えようとしたわけですが、それから2500年経ち、脳血流を測定できるようになったことで、それが科学的にも医学的にも正しかったということが明らかになったのです。

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