日本にも影響「ドイツ総選挙」でこう変わる 16年間続いたメルケル政権がついに終幕へ

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総選挙後に政界を引退するメルケル首相と後継首相候補のラシェットCDU党首(写真・Bloomberg Finance LP)
9月26日、ドイツの下院・連邦議会(基本定数598、改選前の調整後議席数709)の総選挙が実施される。16年にわたって政権を率いていたメルケル首相は総選挙に出馬せず、選挙後に政界を引退する予定。与党第1党の支持率が低迷するなど選挙戦は波乱含みとなっており、選挙後のドイツと欧州連合(EU)の行方が注目される。選挙の展望やメルケル時代の評価、日本への影響などについて、欧州経済やEU情勢が専門の伊藤さゆり・ニッセイ基礎研究所研究理事に聞いた。

 

転換期の担い手を決する選挙

――今度のドイツ総選挙の重要性についてどう考えていますか。

まず、16年間にわたって政権を担ってきたメルケル首相の後継を選ぶ選挙になるということで非常に大きな意味を持っている。

また、この16年間を振り返ると、ドイツ経済はとくに欧州において独り勝ちの状況にあったが、今は経済・産業のあり方自体が大きく変わろうとしている。欧州ではグリーン化を加速させる方向にあり、それを実現するためのデジタル化も重視される中で、今までの産業上の優位が維持されるかどうかが不確かになっている。そうした転換局面における政治の担い手を選ぶ選挙になるという意味でも非常に重要だ。

――選挙戦の現状をどう見ていますか

選挙までに3回行われる首相候補のテレビ討論会の第1回が8月29日に行われ、本格的に選挙戦がスタートした。これまでの動きを見ると、各党の支持率の変化は非常に激しかった。要因の1つにはコロナ禍の影響があり、当初は現職メルケル首相が率いる与党第1党のキリスト教民主同盟(CDU)とその姉妹政党のキリスト教社会同盟(CSU)に有利に働いた。

だが、首相候補が出揃った今年春先になると、「刷新」を掲げた緑の党のベアボック共同党首が注目を集めて同党の支持率が上昇した。もともとドイツでも気候危機への意識の高まりから、緑の党の掲げる政策が支持される下地はあった。

ところが、緑の党はベアボック氏のスキャンダル(経歴詐称疑惑など)で失速する。代わってCDU/CSUが再浮上するが、CDU/CSUの首相候補であるラシェット党首の人気は盛り上がらず、(7月に発生した)洪水の被災地における談笑シーンが批判を浴び、支持率が再び低下した。

結果的に足下では、ショルツ党首(現財務相)の手堅さが評価され、現在CDU/CSUと大連立政権を組むドイツ社会民主党(SPD)の支持率が上昇、世論調査で首位に浮上してその差を広げている。この間、各党の支持率は党首のキャラクターで動いてきた面も大きく、これから投票日までどう変化していくかはなかなか読み切れない。

ハッキリ言えることは、今の状況では1党による単独政権はありえないということ。票が割れる結果として、かなりの確率で「3党連立」が必要となる。2党連立であれば政策などの協議が成立しやすい。例えばCDU/CSUと自由民主党(FDP)は最も実績のある組み合わせで政策の指向も近い。SPDと緑の党による左派寄りの2党連立でも妥協が比較的容易だろう。

だが、3党で連立政権を樹立しようとすると、政党間の政策の距離が広がるため、前回の総選挙後のように政権協議が決裂し、政権樹立までにかなりの時間がかかる可能性がある(前回2017年9月の総選挙では連立協議が難航し、新政権発足は翌年3月初めとなった)。

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