日本にも影響「ドイツ総選挙」でこう変わる 16年間続いたメルケル政権がついに終幕へ

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――選挙戦の主な争点は何ですか。

有権者の意識としてはコロナ問題もあるが、峠を越えてきた感がある。主要政党間の主張に目立った違いもない。そうした中、テレビ討論でもそうだったが、気候危機への取り組みが争点となっている。

ドイツでは今年、改正気候保護法が成立した。背景には、連邦憲法裁判所が従来の気候保護法について、温暖化ガス排出削減措置が不十分で、将来世代の自由権を侵害するとの理由で違憲とした経緯がある。気候危機が争点といっても、取り組みが次世代のための義務だという意識は国内に浸透しており、EUの目標である2050年よりも前に気候中立を実現する方針も主要政党間で一致している。

ただ、緑の党は、改正気候保護法で2045年とした気候中立化の達成時期を20年以内に大きく前倒しし、その実現のため炭素価格を引き上げるとともに、新築住宅への太陽光パネル設置義務化や2030年以降の内燃エンジン車の販売禁止など規制を強化する方針を掲げる。

一方、CDU/CSUのラシェット候補はテレビ討論で、規制を緩和し、投資とイノベーションを促すと違いを強調した。気候中立化の加速では一致していても、スピードや実現の手法には違いがある。

いとう・さゆり●1987年、早稲田大学政治経済学部卒業、日本興業銀行(現みずほフィナンシャルグループ)入行。2001年、ニッセイ基礎研究所入社。2017年7月から現職。2005年、早稲田大学大学院商学研究科修士課程修了。早稲⽥⼤学⼤学院商学研究科非常勤講師兼務(2015年度から)。⽇本EU学会理事(2017年度から)。近著に『沈まぬユーロ 多極化時代における20年目の挑戦』(共著、文眞堂)。

また、コロナ対策費の増大で、さすがのドイツ財政も悪化しており、今後の財政をどうするかでも主張に違いがある。財政均衡主義のCDU/CSUは、健全で強力な財政があったからコロナ危機に手厚い対応ができたとして、危機が一巡すれば「債務ブレーキ制度」に基づき、いち早く均衡回復と債務削減に向けて努力するのが次世代への責任というスタンスだ。

これに対しSPDは、危機後に急いで緊縮することは否定し、気候中立化など将来のための投資に積極的な姿勢をとる。CDU/CSUが増税を否定しているのに対して、SPDは高額所得者の所得税率引き上げや富裕税の復活、相続税改革などを通じた格差是正にも意欲を示す。

緑の党は、脱炭素化加速のための集中投資のため財政を積極活用すべきであり、「債務ブレーキ制度」も見直すべきだと主張している。CDU/CSUとの連立協議となると、この点が難しい問題となりそうだ。

アフガン難民対策は新政権の課題

――アフガニスタンの難民問題は争点になるでしょうか

現状ではまだ難民問題が気候危機やコロナの問題を超えて有権者の関心事にはなっていない。ただドイツやEUは、アフガン難民が無秩序に欧州を目指すことは何としても防ぎたい。まずは、迫害リスクのある人々の退避の支援と、アフガン近隣諸国の難民受け入れに対する支援体制の拡充が最優先課題という点に異論は出にくい。

メルケル政権の支持がかつて失速した最大の原因が、(シリアなどからの)難民問題だった。アフガン難民もEUがまったく受け入れないというわけにはいかないが、域内でどう分担するかとなると見解の対立が生じる。ドイツの新政権は難民受け入れをめぐる合意形成に貢献する責任を負う。

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