テレビのパラリンピックの扱い方が残念すぎる訳 「五輪よりひどい」手のひら返しに偽善の批判も

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では、子どもたちの様子はどうだったのか。私は学校連携観戦チケットで競技を見る子どもたちの姿を画面越しに見ただけですが、身を乗り出して目を輝かせている子もいれば、退屈そうにしている子もいて、反応はそれぞれ。競技場で何かを感じる子もいれば、数年後になって答え合わせができる子もいるはずですから、こうした反応は健全に見えます。

また、試合後に選手たちが子どもたちに少し近づいて感謝の意思を示し、子どもたちも拍手で返すという微笑ましいシーンもありました。個人差はあっても、次の時代を担う子どもたちの記憶と肌感覚に残るものがあるのか。子どもたちが多様性を知り、ともに生きていく社会を目指す第一歩につながりそうなのか。リモートなどを使えば観戦後の子どもたちに話を聞けるだけに、テレビにはそれを伝えてほしいのです。

スタッフの作為や思惑のない「本物」

そのほかでは、感染予防対策の実態や、自治体と学校の対応などを検証することもいいでしょう。さらに観戦を取りやめても、警備・清掃などのスタッフや消毒液、体温測定機器などの経費がどれだけかかっているのかなど、扱うべきテーマは多岐にわたります。しかし現状では、「10代が活躍したから」「メダルを獲ったから」以外の放送が少ないため、「視聴率至上主義」などと揶揄されてしまうのでしょう。

もちろん、パラリンピックは子どもだけでなく大人たちにとっても、いくつかの意味で見応えのあるもの。私はこれまで過去3大会を見た程度にすぎませんが、日本人選手の活躍を応援するだけでなく、各国選手の繊細な技術、集中力の高さ、ピンチに打ち勝つ精神力の強さを感じて、他のスポーツ大会以上に心を揺さぶられてきました。オリンピックが「痛快感・爽快感を得られることの多い大会」だとしたら、パラリンピックは「勇気と元気を得られることの多い大会」なのかもしれません。

近年、「24時間テレビ」は「感動の押し売り」と批判されがちになっていますが、これは構成・演出にスタッフの作為や視聴率狙いの思惑が透けて見えるからでしょう。その点、パラリンピックは構成・演出のないリアルな姿が見られるものです。

だからこそ民放各局は、早朝や深夜のハイライト番組でもいいからもう少し放送数を増やし、情報番組で扱う際は感動をあおるような構成・演出ではなく、ありのままの姿を伝える形でいいのではないでしょうか。

木村 隆志 コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者

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きむら たかし / Takashi Kimura

テレビ、ドラマ、タレントを専門テーマに、メディア出演やコラム執筆を重ねるほか、取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーとしても活動。さらに、独自のコミュニケーション理論をベースにした人間関係コンサルタントとして、1万人超の対人相談に乗っている。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』(TAC出版)など。

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