日本の「ゴジラ対策」危機管理的にどうだったのか 未知の生物との戦いにどう挑んだらいいか

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さらに平時はEOCではなく他部署で業務を行うものの、危機時にインシデント・コマンド・システムの参謀に任命されてEOCで事態対処行動に従事する者に対しても定期的に訓練を施し、いつ如何なる時も事態対処行動に従事することができる練度を維持することが求められる。

ゴジラが現実世界に現れることはないと願っているが、未知の生物の脅威は実際に存在する。新型コロナウイルスはその典型である。

巨災対と比較して、新型コロナウイルスという未知の病原体に対する日本政府の事態対処行動はどうか。2020年4月2日、NHKは「霞が関のリアル:コロナと闘う公務員たち 厚労省“コロナ本部” 現場の保健所は」という特集で、巨災対に相当する厚労省コロナ本部を映し出している。

同番組では、コロナ本部を「新型コロナウイルス対策の要として、厚生労働省内部に設けられた通称『コロナ本部』。官僚たちは不眠不休で働いていました」「講堂には長机がところ狭しと並び全国の空港などで実施する検疫を管理する『検疫班』。いまだに難しいマスクの調達を監督する『マスク班』、国会対応を担う『国会班』など10近くの班が編成されているといいます」などと紹介している。

事態対処に当たる職員には敬意を表したいが、一方でその様子は巨災対同様にEOCはなく、アナログであることがうかがえる。

日本の危機管理手法も一歩前進?

こうした中、報道によれば、厚労省は現状を打開するためか、「危機管理オペレーションセンター(EOC)」を省内に設置すべく、必要経費を来年度予算案の概算要求に盛り込むことを決めたという。

今後EOCの導入と「3S」に基づく運用が進めば、より効率的な事態対処行動が取れるようになることが期待される。加えて、インシデント・コマンド・システムが導入されてその運用について理解が進めば、さらなる飛躍が望めるだろう。

危機への事態対処行動に従事する文官と、その利益を享受する国民の両者を守るために、政府・自治体・各前線機関(医療機関・保健所・検疫所等)の危機管理能力をインシデント・コマンド・システムやEOCの観点からどのように向上させていくか。日本の危機管理手法も、シン・ゴジラのように、短期間での劇的な進化が望まれる。

阿部 圭史 政策研究大学院大学 政策研究院 シニア・フェロー

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あべけいし / Keishi Abe

政策研究大学院大学 政策研究院 シニア・フェロー、医師。専門は国際政治・安全保障・危機管理・医療・公衆衛生。国立国際医療研究センターを経て、厚生労働省入省。ワクチン政策等の内政、国際機関や諸外国との外交、国際的に脅威となる感染症に対する危機管理に従事。また、WHO(世界保健機関)健康危機管理官として感染症危機管理政策、大量破壊兵器に対する公衆衛生危機管理政策、脆弱国家における人道危機対応に従事。著書に『感染症の国家戦略 日本の安全保障と危機管理』、『コロナ民間臨調報告書』(共著)。北海道大学医学部卒業。ジョージタウン大学外交大学院修士課程(国際政治・安全保障専攻)修了。

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