久々に映画「シン・ゴジラ」(2016年公開)を観た。人類vs. 未知の生物の戦いは、変わらず非常に面白い。一方で、今回のゴジラは、一個体のまま短期間で劇的な進化を遂げ、果ては無生殖によるネズミ算式の個体増殖が可能となる究極の生物という設定だ。尻尾の先から今にも飛び出さんとする禍々しい姿の分裂群体を見ると、往年のゴジラファンとしては、このゴジラからは可愛らしいミニラは生まれそうにないなと、少し寂しい気もした。
少々脱線したが、本論考はゴジラ評を述べることが目的ではない。ゴジラという未知の生物に対する政府の事態対処行動の様子を題材に、感染症危機管理にも適用できる危機管理の手法を考察することが目的だ。
国家が主導する危機管理活動(平時の事態準備行動=プリペアドネスと、危機時の事態対処行動=レスポンスを合わせたもの)にはあまたの機能が必要となるが、危機時の事態対処行動についてあえて簡略化して言えば、2つの機能が基盤として必須である。1つは、ハードとしての「危機管理センター(EOC: Emergency Operations Center)」。もう1つは、ソフトとしての「インシデント・コマンド・システム(ICS)」である。
あらゆる種類の危機に対応する
EOCとは、事態対処行動において指揮官が陣取り、危機管理組織を指揮する中央指揮所のことである。あらゆる種類の危機(All Hazard Approach)に24時間365日対応することが求められ、事態対処行動を実行するための情報収集・整理・統合のハブとして機能すると同時に、指揮官の危機管理組織全体に対する指揮統制を機能させ、機動的に事態対処行動を行う際の技術的対応のハブとしての機能を果たす。
EOCを機能させるためには、スタッフ(Staff)、設備(Stuff)、指揮統制支援システム(System)の「3S」が必要である。具体的には、事態対処行動にあたる多様な専門性を有するスタッフ、それらが統一された意思の下に日々対応するために、物理的に1カ所に集まり事態対処行動を遂行できるITインフラが整備された物理的スペース(大部屋)などの各種設備のほかに、最前線の現場にいるスタッフに対する指揮統制や、ほかの危機管理組織との調整を可能とする指揮統制支援システムのことである。
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