日本の「ゴジラ対策」危機管理的にどうだったのか 未知の生物との戦いにどう挑んだらいいか

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インシデント・コマンド・システムとは、標準化された上意下達の意思決定システムのことであり、文官主導の危機管理組織が効率的な事態対処行動を行うために、軍事組織の参謀組織構造をモデルとして作られている。

インシデント・コマンド・システムは、そのトップに全体を統括するインシデント・コマンダー(指揮官)が位置し、その下に各機能部門がぶら下がって参謀達が部門毎に配置され、完全なヒエラルキー構造を取る。こうすることで、指揮命令系統と責任分担が明確化され、一分一秒を争う危機時に混乱を避けつつ効率的なオペレーションができるのである。

インシデント・コマンド・システムを構成する指揮官や参謀として任命された者が実際に働く場所がEOCだ。インシデント・コマンド・システムとEOCは、さまざまな分野の危機管理で採用されている。感染症危機管理の分野でも、アメリカ疾病対策センター(CDC)や世界健康機関(WHO)など先進国・途上国・国際機関を問わず、感染症危機管理における組織管理ツールとして世界中で採用され、実際に稼働している。

ゴジラに対する日本政府の対応は?

ゴジラに対処する日本政府のインシデント・コマンド・システムとEOCの状況を見ていこう。

政府は、ゴジラに対する事態対処行動を行う組織として、「巨大不明生物特設災害対策本部(通称:巨災対)」を立ち上げた。これを統括するのは、内閣官房副長官(政務担当)の矢口蘭堂。すなわち、巨災対の組織構造がインシデント・コマンド・システムに相当し、矢口がインシデント・コマンダーである。

矢口は、巨災対の参謀として任命された各省庁の官僚達に対して、「本対策室の中では、どう動いても人事査定に影響はない。なので、役職・年次・省庁間の縦割りを気にせず、ここでは自由に発言してほしい」と述べる。これはインシデント・コマンド・システムの運用の仕方として正しい。

危機時には、平時の官僚制の人事の常道たる年功序列制を脇に置き、指揮官は「危機時に有能な部下」を引き抜き、信頼関係に基づいた強固かつ有機的に団結したチームを編成し、事態対処行動を行う必要がある。つまり、実力本位制の徹底である。

年功序列に基づく平時の組織で高位の役職を占めていたとしても、危機管理の知識と経験がない者を当て職的に危機時の組織たるインシデント・コマンド・システムの要職に登用することは、円滑な事態対処行動を阻害する可能性があり、避けるべきである。また、ここでいう「実力」の一要素として、作中では「首を斜めに振らない連中」と表現している。つまり、首を縦(Yes)か横(No)に振り、ハッキリと決断できる連中ということである。

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