一見すると、高齢化が進む中で日本の家計貯蓄率は低下傾向にあって、消費の不足から経済が低迷するという姿とは大きく異なるように見える。しかし、企業が得た利益が家計に分配されず、しかも投資にも回らずに企業に蓄積されて、企業部門が資金余剰になっているという姿は、労働者に比べて資本家の貯蓄率が高いという状況である。所得がより資本家に多く分配されるという昔のモデルによく似ているではないか。
市場の需給によって、適切な所得分配に導かれると考えるのか、それとも、社会主義の脅威が無くなったことで、雇用者の賃金が抑制され過ぎて、経済は不均衡に至る恐れが拡大していると考えるのか。所得格差拡大の問題は、社会の公平や公正という問題だけではなく、マクロ経済の安定という問題にとっても重要なものだ。格差を巡る議論は、資本主義の限界という古い議論を巻き起こしている。経済学の中でも忘れられていた議論にもう一度光を当てる必要があることを意味しているのではないだろうか。
(参考文献)
・Summers, Lawrence H., IMF Fourteenth Annual Research Conference in Honor of Stanley Fischer, 2013
・林敏彦著『大恐慌のアメリカ』、岩波新書、1988年
・Galbraith, John K., The Grate Crash 1929,1954, (邦訳『大暴落1929』村井章子訳、日経BP社、2008年)
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