所得格差の拡大は経済の長期停滞を招く ニッポンは「一億総中流」でなくなるのか

✎ 1〜 ✎ 18 ✎ 19 ✎ 20 ✎ 最新
著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

一時点で考えれば所得分配の偏りは需要不足をもたらす効果があると考えられるが、現実の経済で起こっているのだろうか?

かつて非常に高かった日本の家計貯蓄率は2012年度には1.0%に低下している。2013年度には、株価の上昇などによる資産効果や消費税率引き上げ(2014年4月)前の駆け込み需要などによって民間消費が活発になり、家計貯蓄率はさらに低下(消費性向は上昇)して、マイナス0.5%程度にまで落ち込んだと推計している。現在の日本経済では、格差が拡大するに従って貯蓄率が上昇し、家計消費の低迷が起きているようには見えない。

所得が労働者よりも資本家に多く分配されている

経済学の教科書では、企業活動で生まれた所得は一度家計にすべて分配され、企業は投資に必要な資金を再度金融市場で調達するというように書いてあるものが多い。

これだと、企業部門は資金不足になっているはずだが、現実の日本経済では本欄でも何度か指摘しているように大幅な資金余剰だ。リーマンショック後の米国経済や英国経済でも企業部門は資金余剰になる傾向がみられる。この状況を、株主である家計が自分で貯蓄する代わりに、企業に貯蓄させていると考えることもできる。

現実の経済では、教科書に書かれているように企業の利益を家計に配当して再度市場で資金調達を行うと、コストが高い。税負担の点でも企業利益に法人税が課せられる上に、配当には個人の所得税が課税させるから、企業が利益をそのまま再投資した方が圧倒的に税負担が少なくて済む。

企業の投資行動が株主の意向を反映したものだとすると、企業の高い貯蓄率は資本家の高い家計貯蓄率を反映したものだともいえる。

次ページ資本主義の限界という議論
関連記事
トピックボードAD
政治・経済の人気記事