所得格差の拡大は経済の長期停滞を招く

ニッポンは「一億総中流」でなくなるのか

格差の拡大は中流意識を破壊してしまい社会を不安定にするという恐れがある。それだけでなく、所得格差の拡大は経済が停滞する原因にもなりうる。実際、『大恐慌のアメリカ』(林敏彦著)に書かれているように、所得格差の拡大は1930年代の大恐慌の原因の一つとも考えられている。

昨年、IMF(国際通貨基金)の会合で、サマーズ元米国財務長官が米国経済が長期停滞に陥っているのではないかという疑念を呈したことは、世界に大きな衝撃を与えた。これが正しければ、バブルのようなことが起きなければ、完全雇用の水準にまで失業率が低下することはなく、経済は安定しないことになる。経済を恒常的な需要不足状態に陥らせているものが所得格差の拡大だとすれば、長期停滞論と格差問題がつながることになる。

ガルブレイスは、『大暴落1929』の中で、大恐慌が長引いたことと関係の深い問題の第一に、所得分配の偏りを挙げている。「(大暴落前の)経済が高レベルの投資か贅沢な消費のどちらか、あるいは両方」に依存していたことを意味していると述べている。所得分配の偏りのために、経済がバブル的な状態でなければバランスしなくなっていたということだろう。

格差の拡大により消費の不足が恒常的に発生

需要不足による不況というと、すぐに企業の設備投資が落ち込むことを思い浮かべがちだ。確かに設備投資金額の変動は大きいので、短期的な景気変動の主要な原因と言える。長期に経済の低迷が続く場合にはどうか。例えば企業家のアニマルスピリットの弱まりなどによって設備投資が低水準になることが考えられる。しかし、それだけが原因ではない可能性が大きい。消費の長期的な低迷が、経済の長期停滞が起こる原因の一つなのである。

一時点を取れば所得水準が高い世帯ほど貯蓄率が高い(消費性向は低い)という傾向がある。したがって、貯蓄率の高い高所得者層が受け取る所得の割合が高くなれば、同じ経済活動水準に対して貯蓄過剰となりやすくなると考えられる。OECDが指摘しているように、上位1%の人達が受け取る所得の割合が上昇しているとすると、消費性向が高い比較的所得水準の低い人達の受け取る所得の割合が低下しているので、消費の不足が恒常的に発生するようになっている可能性がある。

ミハウ・カレツキやニコラス・カルドア、ジョーン・ロビンソンといった欧州の経済学者は、資本家と労働者では貯蓄率が大きく違うという視点から、消費不足が起こり経済が停滞するメカニズムを論じていた。労働者の受け取る賃金と資本家の受け取る利潤の割合の変化が、消費需要に影響をあたえる。

このように社会を資本家と労働者に二分するのは、かなり大ざっぱな方法だが、所得格差の影響を分析するには適当なモデルだろう。ポストケインジアンと呼ばれる人達が考えていた経済モデルは、次第に経済学の主流から外れ、最近の経済学の教科書では見かけなくなってしまったが、もう一度見直してみる価値があるのではないか。

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