古舘伊知郎が分析「笑福亭鶴瓶のスゴイ雑談力」 組んだ相方が生き生きする司会のすごみ

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もう一つ僕がすごいな、日本一だよなと思うのは、雑談力。鶴瓶さんの司会は、まるで雑談しているかのように進むじゃないですか。

「あれ、俺聞いたで。何やったかな」

「聞いたで」と自分で言ったのに「何やったかな」と続ける。もうここで矛盾しています。

「何やったかな、ほら、ほら、自分、金貸したやろ?」

って、全部断片的。雑談の極みです。

僕だったら、「TBSのディレクターに半月ぐらい前に聞いたんですけどね」って、いつどこで誰がどうしたっていうのをわかりやすく伝えなきゃいけないっていうアナウンサーの名残を出してしまう。

これはこれで、ある場面では相手に緊張感を持たせ、「こいつ詰めてきたな」って思わせるのに有効なんですが、鶴瓶さんは真逆で、誰に聞いたとか、主語述語が全部後回し。

すると僕は、「いや、鶴瓶さん。その話はね、半月どころじゃないですよ。3年も前の話です」って補填しはじめる。人は相手が、「俺聞いたで。何だったかな」って言いよどんだり、言葉に詰まったら、どうにか補填しようとして必死で話しはじめるものなんです。そこにコミュニケーションの端緒があるから。

リサーチに支えられた究極の雑談力

鶴瓶さんが雑談の極みをすることで、こちらが話しやすくなる。しまいには、主語述語が後ろに倒れまくって、「笑うわ、本当に。あんな」って、何のことかもうわかんないですよ。

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でもそういう局面から、本音や思わぬ情動みたいなものが出てくることを鶴瓶さんは熟知しているんですよ。あの究極の雑談力は、他の人にはマネできません。

よく考えると鶴瓶さんがMCの番組は、どの番組も『スジナシ』っぽいところがありますね。リハーサルも、打ち合わせもせず、いきなり本番。段取りも決めないから、どこへ流されるか着陸するかわからない面白さとヒヤヒヤ感があります。

実は、鶴瓶さんってリサーチ力が半端ないんですよ。打ち合わせに参加しないし制作の意向にも合わせない。制作側からしたらちょっと困ったところはあるかもしれないけど、独自のリサーチ力がすごいから、前段階をすべてジャンプして本番を成立させることができるんです。

古舘 伊知郎 フリーアナウンサー

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ふるたち いちろう / Ichiro Furutachi

立教大学を卒業後、1977(昭和52)年、テレビ朝日にアナウンサーとして入社。「古舘節」と形容されたプロレス実況は絶大な人気を誇り、フリーとなった後、F1などでもムーブメントを巻き起こし「実況=古舘」のイメージを確立する。一方、3年連続で「NHK紅白歌合戦」の司会を務めるなど、司会者としても異彩を放ち、NHK+民放全局でレギュラー番組の看板を担った。その後、テレビ朝日「報道ステーション」で12年間キャスターを務め、現在、再び自由なしゃべり手となる。2019年4月、立教大学経済学部客員教授に就任。

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